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第22話

「ただ、少し……疲れただけ」 何とかその視線から逃れて俯く。 誤魔化して隠そうとしたのは、これ以上険悪な雰囲気になりたくないのもあるけど…僕の情けない姿を、ハイジに知られたくなかったから。 「マジで、それだけか?」 「ん」 「……」 「だから、ハイジが迎えに来てくれて……良かった」 小さくそう漏らせば、ハイジの鋭い視線が柔らかくなった気がした。 怖ず怖ずと顔を上げると、ランタンの柔らかな光に照らされたハイジの表情が、穏やかに映る。 「……そっか」 「……」 「頑張ったんだな、さくら」 頬杖を付き、真っ直ぐ僕を見つめる二つの瞳。柔らかな光を含み、痛い程に優しくて。 僕の心の深い場所を、甘く揺らす。 「……」 ハイジとは、まだ出会って間もないのに。何でこんなに僕の事を思ってくれるんだろう。 僕だけを、見てくれるんだろう…… トクトクと鼓動が高鳴り、気恥ずかしくて余計にハイジを見られなくなってしまう。 「オレもな、今日は頑張ったんだぜ」 「……え……」 ハイジの声が鼓膜を通り、脳内に到達するまで約一秒。それから言葉の意味を理解するのに、約数秒の時間を要してしまった。 「まぁ……さくらに比べたら、大した仕事じゃねーけど」 「……仕事?」 そういえば昨日、チームのみんなと用事があるって言ってたっけ…… 視線を上げ真っ直ぐハイジを捉えれば、頬杖を崩したハイジが口角を持ち上げ、再び口を開く。 「そ。頼まれたモンを、時間通りに指定された場所に運ぶ仕事だ」 「……」 「後は、……まぁ、色々な」 そう言いながら、テーブル端に置かれたお冷やを手に取り、グラスを傾ける。 「施設時代に、世話ンなった人がいてさ。その人がオレらのチームの面倒を見てくれてンだよ」 「……」 「リュウさん、っていうんだけどな」 「──!」 リュウ…… その名前を聞いた途端、背筋がゾクッとし、心臓が飛び出してしまう程の大きな鼓動を打つ。 「オレの、恩人なんだよ」 「……」 「あの人がいなかったら、今のオレは居ねぇ……」 ドクドクと刻む心音は、先程まで感じていたものよりも、激しくて。 痺れる指先まで、熱い。 「……」 背中から包み込まれる温もり。 項に掛かる熱い吐息。 竜一の匂い。 重なり合った鼓動。 あの時の五感が全て蘇り、まるで追体験しているような感覚に陥る。 でも──そんな訳、ない。 『リュウ』って名前なら、きっとこの世の中に星の数ほど存在する。 それに、ハイジが施設時代に世話になった人って言ってたから……竜一の筈がない。 「だから時々、リュウさんの仕事を手伝ってンだよ」 「……」 そう思うのに、どうしよう。 まだ……心臓が落ち着かない。

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