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第37話
「……!」
その声に、ビクンと身体が震える。
僕から腕を外し、振り返る太一。つられて怖ず怖ずと後ろを振り向けば、そこにいたのは──
「姫に、手荒なマネすんじゃねぇッス!」
怒りに満ち満ちた表情で、足早に近付く小柄な男性。
肩まで長い赤色の髪。僕と似通った背丈。可愛らしい童顔ながら、太一らを睨み付ける眼は据わっていて……
「何だ、モルじゃねぇか……」
相手の正体が解った途端、安堵混じりの声を上げた太一が下卑た笑みを溢す。
「お前、リュウさんの『モル』モットに成り下がったんだろ? そのお前がこの俺に、盾突こうってのかぁ?」
「……なら、僕が扱きましょうか。太一さん」
トンッ──
頭上に影が差すと同時に叩かれる肩。振り返って目線を上げれば……ふわりとウェーブがかった髪に柔和な笑顔を浮かべた、ひょろりと背の高い男性が。
「ほら、手も口も大きいんで。僕が姫の代わりに……」
「──ふざけんなっ、!」
柔和な笑顔を崩さず、大きく開けた口の前に何かを握るように丸めた手を添えてみせれば、怒りに満ちた太一が吠える。
「ハァ……? ふざけてんのはどっちだよ。
今のハイジが知ったら、……どうなるか、解っててやってんだよね」
「……」
「殺されても、知らねぇから」
ゾクッ……
僅かに開かれる瞼。その奥に潜む、漆黒の眼玉。一度吸い込まれたら二度と抜け出せなくなりそうな程に広がる黒い闇に、自然と身体が震える。
「───チッ、」
見下げるその眼に圧されたのか。舌打ちした太一が後退る。
「テメェ。あんまり調子乗ってると、後でシバくぞ」
悔しさを滲ませた眼で睨み返す太一が、仲間を引き連れ去って行く。苦し紛れの、安っぽい捨て台詞を吐いて。
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