65 / 80
第65話
一通り買い物が終わり、同じ商業施設内にあるカフェに入る。
木の温もりが感じられる内装。パーティション代わりの観葉植物。少し落とした暖色系の照明が、お洒落な雰囲気を醸し出している。
「はぁ、流石に疲れたね」
「……」
「さくらくんはさ、甘いもの好き?」
メニュー表を開き、ハルオがさらりと尋ねる。
「ここのパンケーキ、美味しいって評判らしいよ。一緒に食べてみない?」
「……ぇ……」
優しげな笑顔を向けられてしまい、何となく断りづらい。
「色んな種類があると迷うよね。何か希望ある?」
「……、いえ」
「じゃあ、これにしようか」
僕が答えないでいると、ハルオが独断で決めて店員を呼んだ。
二つ重なった、厚めでふわふわのパンケーキ。ミントを飾ったホイップクリームは高く巻き上げられ、その足元には、フルーツソースの掛かったベリー系のフルーツが添えられている。
「……先、食べていいよ」
中央に置かれた皿が、スッと僕の前に寄せられる。
ハルオを見れば、珈琲を片手に僕の様子をじっと眺めていた。
「……」
見られて緊張する中、ナイフとフォークを使って手応えのないパンケーキの端を切る。
昨夜までは、これからどうなるんだろうと不安でいっぱいだった。……けど、ハルオが優しそうな人で良かった。
きっとハルオは、人に対しての執着心というものが無いんだろう。
セフレの人に対する態度に、最初は冷たくて嫌な感じがしていたけど。……多分、わざと自分から悪役を買って出たんだと思う。僕を上手く巻き込んで、自分を諦めさせる為に。
生クリームとベリーソースの付いたパンケーキの欠片を、口に含む。
くしゅ、しゅわっ、と口の中で溶けて……不思議な食感。
「………美味しい」
思わず、声が零れてしまう。
「よかった」
視線を上げれば、目を細めたハルオが穏やかな表情で僕を見つめていた。
「あの……」
意を決して、口を開く。
「泊めて貰う間、僕に出来る事はないか、ずっと考えていたんですけど。
……その、料理くらいしか、思いつかなくて」
おばあちゃんが僕に教えてくれた、生きていく為の料理。
人に出せる程のものではないけど……
「……へぇ。さくらくん、料理できるの?」
「はい」
「それじゃあ、お願いしようかな」
片肘をついたハルオが、嬉しそうに微笑む。
ともだちにシェアしよう!