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第66話
買い物袋を引っ提げてアパートに戻る頃には、すっかり陽は沈み、辺りが闇に包まれていた。
「……歩き疲れたね。お風呂の準備してくるよ」
荷物をリビングに置いたハルオが、風呂場へと向かう。
その間に僕は、帰りに寄ったスーパーで買い込んだ食材を、冷蔵庫に詰める。
それからリビングに戻り、買い物袋を広げて食器を取り出すと、包装用の新聞紙を剥がす。
『……ベタになっちゃうけど。これ、さくらくんによく似合うよ』
ハルオの笑顔に押され、つい選んでしまった──桜模様の湯呑みと茶碗。
散りゆく桜は好きじゃないけど。透き通るような白い陶器に、薄ピンク色の桜の花びらが舞い散る様は、何だか綺麗で。
大事に抱え、キッチンの流しで軽くすすぐ。水切りかごに伏せて置き、リビングに戻ろうとして、ふと食器棚が視界に入った。
ガラス戸の向こうに映る、湯呑みと茶碗──黒い陶器に舞い散る、薄ピンク色の桜の花びら。
……え……
同じ形、同じ模様。
僕のと色違いのそれは、まるで夫婦茶碗のよう。
……まさか……
ゾクッと背筋に悪寒が走り、嫌な感覚が胸中を蠢く。
「……」
その時ふと思い出されたのは、カップル用のルームウェア。
確かあの時も、僕に似合うと言って押し切られたような気がする。
……まさか、ね。
偶然の一致だと思い直し、嫌に高鳴る胸の鼓動を抑えるように、大きく深呼吸する。
*
……僕だけ、なのかな……
普通はそこまで、気にしないものなんだろうか。
「……」
お風呂の湯船に浸かりながら、先程の事をぐずぐずと考えてしまう。
これから先、この家にいる限りずっと、恋人でもないハルオとお揃いのものを使わなきゃいけないのかな……
そう思うと、憂鬱な気分になる。
もしかしたらだけど。ハルオのそういう無自覚な行動に、セフレの人は勘違いしてしまったのかもしれない。
……僕は、そうなりたくないけど。
「……」
気が重いまま、湯船から上がる。
カチャンと浴室のドアを閉め、棚にあったバスタオルを手に取ると、濡れた身体をそのままに、顔を埋めて溜め息をつく。
──シャッ、
突然、勢いよく開く間仕切りのカーテン。
「──!」
驚いて、咄嗟にタオルを広げて身体を隠す。
「……、ごめんっ」
視線を逸らしたハルオの頬が、みるみる赤くなっていく。
「これ、忘れてたから……」
目の前に出されたのは、ハルオとお揃いのルームウェア。
「ここに、置いておくね」
「……」
身体を隠したまま動けずにいれば、視線を逸らしたままのハルオが近付き、着替えの籠にそっと置く。
その様子を警戒しながら見つめていれば、ハルオの眼が僕に向けられ、この姿をじっと捉える。
「……」
一度は消えかけていた、ハルオへの抵抗感。それが、再び募っていく。
「………あの、」
警戒心を露わにすれば、ハッと我に返ったハルオが慌てた様子で視線を外し、無言のままカーテンの向こうへと消えていった。
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