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第67話
翌朝。
まだ部屋の空気が暖まらないうちから、キッチンに立って作った朝食。
狭いガラステーブルに並べた、ご飯と豆腐の味噌汁。だし巻き卵。フライパンで焼いた鯖の塩焼き。添え物の野菜サラダに箸休めの金平牛蒡。
「………ん、いい匂い……」
今し方起きたんだろう。昨日購入したダークグレーのルームウェア姿のハルオが、眠そうな声を上げながら背伸びをし、ソファから身を起こすと片手で簡単に髪を整える。
「えっ。……これ全部、さくらくんが作ったの?」
「……はい」
「へぇ、凄いなぁ」
テーブル前に降り胡座をかいて座ると、ウォーターサーバーで緑茶を煎れている僕を浮かれた様子で待ち構えていた。
「いただきます」
手を合わせたハルオが、まだ熱いお茶を啜ってから左手に茶碗を持つ。
「……」
同じ模様の湯呑みと茶碗。
気付いてる筈なのに……何も言ってこない。
……やっぱり、わざとだったんだ。
解ってて、色違いのものを揃えたんだ……
嫌な感覚が込み上げ、啜った味噌汁と一緒に飲み下す。
だし巻き卵を摘まんで口に入れたハルオの目が一瞬見開かれ、直ぐに顔が綻ぶ。
「美味い……!」
ご飯を掻き込んだ後、金平牛蒡を立て続けに口に入れる。
「これも、美味しい!」
「……」
「俺さ、結構和食好きなんだよ。
……これから毎日、こんな美味しい料理が食べられるなんて、嬉しいなぁ」
頬張ったまま、ハルオが柔らかく微笑む。
「……」
そう言われてしまうと、悪い気はしない。
料理をすると提案したのは僕の方だし、ハルオばかり責められないけど。
……でも、これじゃあまるで……夫婦ごっこをしているみたいだ。
「……」
目を伏せたまま、箸先で鯖の身を解し、ひと欠け摘まむと口に運ぶ。
ここにいるのがハイジだったら、良かったのに……
「……あ、そうだ」
そう言って茶碗と箸を置いたハルオが、少しだけ腰を浮かせてポケットを弄る。
「今日は、夕方の6時までバイトだからさ。もし出掛ける用事があったら、これ使って」
差し出されたのは、アパートの鍵。
「……うん」
同居なら、あり得なくはないのに。
気が重いまま、合鍵だろうそれを受け取る。
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