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第1話

中高一貫のエスカレーター式の全寮制男子校。月下学園内にある林の中にある全面ガラス張りの正六角形の建物、旧温室。 そこで僕、藤代真咲は彼に出会った。 ◇ 高等部にあがり、数日が経つ。所属する部活動も決めて新入部員も交えた顔合わせとして初めての集まりだ。割り当てられた部室には見知った人ばかり。むしろ知らない顔のほうが少ないくらいだ。2、3年生に数人いるかいないか。皆が集まったのを確認すると、一つ咳払いをしてどこが芝居がかった口調で部長が話し出した。 「新入生諸君、入学おめでとう。そして我が園芸部にようこそ。俺は部長で3年の柏崎だ。よろしく頼む……とはいっても見知った顔しか居ないがな、一応の挨拶だ」 肩を竦めて黒縁眼鏡の奥にある垂れ目がちの目を緩ませた。嬉しそうだなと、なんとなく思う。苦笑気味に人好きする笑みを浮かべた部長はからかうように言う。 「お前らくらいだからな、この学園内で自ら土弄りをするような奴らは」 嫌味ともとれるその言葉が全く嫌味に聞こえないのは部長が言うからだろう。ある程度家が裕福で、名家の息子が通うような学園だ。汗をかいて汚れるような部活に入るほうが少数派であるとは理解している。 それでも僕は花の世話をしている方が好きだった。

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