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第4話

怖ず怖ずと視線を上げれば、眉根を寄せた凌の眼が据わっていた。 「……」 小さく、首を横に振る。 身の上話をする程、僕はまだこの人を信用していない。 ハルオの交友関係者なら、尚更…… 「ハルオは?」 「……」 「この事、知っとるんか?」 ソファから下りて僕の目の前にしゃがみ、目線の高さを合わせてくれる。 唇が綺麗な弧を描き、柔らかく目を細めた凌は……僕を優しく包み込むような表情をしていて。 二の腕を掴む手を解くと、凌の手がスッと伸ばされる。 「……震えとる。 堪忍な、変な事聞いてもうて……」 そっと、掬い取られる手…… 大きくて、ごつごつした凌の手が、僕の手をそっと包む。 温かくて、心地良くて……触れられても、全然怖くない。 トクン、トクン…… 指先から感じる脈動。 不思議と心地良く、僕の心を落ち着かせてくれる。 「……!」 ……え…… 何で…… ふと感じたその感覚に、少しだけ戸惑う。 ……何でだろう。 この人、見た目は全然違うのに…… ──アゲハに、似てる。 アゲハは、いつも優しかった。 理不尽な理由で母に怒鳴られ、部屋の隅ですすり泣く僕の肩をそっと抱いてくれた。 おばあちゃんが亡くなって、母のヒステリーが酷くなった後も……ずっと味方でいてくれた。 容姿端麗で、成績も優秀。物腰が柔らかいのに、人を惹きつけるオーラは強くて。 そんなアゲハは、周囲の人達から『王子様』と呼ばれていた。 最初は、自慢の兄だった。 でも、いつからか…… 僕は兄を妬むようになっていた。 母から寵愛を受け、周りからは賞賛され。 すっかり兄の陰に追いやられた僕は、王子様に近付く為の踏み台として色んな人に利用された。 そんな僕を守ろうとする兄は、決して僕の領域にまでは足を踏み込んでは来ない。 ただ、光溢れる世界から、優しく手を差し伸べているだけ。 そんな偽善者のようなアゲハの態度が、鼻につくようになり…… 気付けば僕は、触れられるのが嫌な程、アゲハを憎むようになっていた。 もしアゲハが、兄弟じゃなかったら。 『王子様』ともて(はや)され、比較されていなかったら。 今でも僕は、アゲハを好きでいたのかもしれない……

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