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第3話
「ハルオとは、そんなんじゃ……」
「……ふぅん。なら一体、君はハルオの何なん?」
口角が緩く持ち上がり、意地悪な質問が続く。
興味に満ち、洞察するような男の眼──
「……訳あって、居候させて貰ってるだけです」
「……」
「それに。ハルオにはちゃんと、特定の相手がいるみたいで……」
「……へぇ」
顔を上げた男の眼が、じっと僕を凝視する。先程までの柔らかな雰囲気は、もう感じられない。
「……、」
逸らしたいのに、逸らせない。
良く解らない恐怖が襲い、息が上手くできない。
口角を吊り上げたまま、少しだけ細められる眼。脅える僕に向き直り、その顔を覗き込む。
「なら、口説いてもええ?」
「……え……」
想定外の台詞に、驚く。
どう反応していいか解らず、唇を引き結ぶ。瞬きもせずに男を見つめていれば……その様子に、男が突然吹き出す。
「ふっ、アッハハハ。……冗談や!」
「……」
「なんや。本気にしたん?」
緊迫した空気が、一瞬にして崩れる。
「……」
人当たりの良い笑顔。和やかな雰囲気。
取り巻く空気や男の物腰が柔らかくなり、さっきよりも呼吸がし易い。
「にしても、ホンマに可愛ぇな。名前、何て言うん?」
「……さくら」
「へぇ、さくらちゃんか。名前まで可愛ぇんやな。……あ、俺は凌平 。気軽にりょうって呼んでや」
「……」
細められた眼が、優しい。
軽いノリで距離を詰め、心の垣根を平気で飛び越えてくるこの人が、何故か嫌じゃない。
……不思議な人だな。
「あ、そうや!」
思い出したように凌がそう言い、沢庵を指で摘まんで口に放り込む。
「さくらちゃんは、付き合っとる奴おるん? そのキスマーク、彼氏につけられてん?」
捲し立てながら、その軽いノリで自身の首筋を指差す。
「──!」
瞬間、息が止まる。
背筋が凍りつき、身体が震え、指先が痺れる。
掴まれた手首の感触が蘇り、払拭しようと左手で右の手首を擦る。
「……」
……平気だ、こんなの……
そう思おうとしているのに。あの時の恐怖が襲い、身体に刻まれた痛みが蘇る。
目を伏せ、胸の前で腕を交差させながら、自身を抱くようにして二の腕を掴む。
「……これは、レイプ……されて……」
酷く震える声。思ったよりも掠れていて、自分でも驚いてしまう。
「──ハァ、誰にやッッ、!?」
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