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第39話 **

××× 「……!」 ぱちん、と瞼が開く。 その瞬間、それまであった微睡みが、引き潮の如く消えていく。 ゆっくりと瞬きをし、明るくなった窓へと視線を移す。 朝を告げる爽やかな小鳥の|囀《さえず》り。それを遠くで聴きながら、再び瞼を閉じる。まだぼんやりする頭で、もう一度夢の世界に戻りたいと願いながら。 「……」 それは、とても幸せな夢だった。 太一達に襲われた時の願望を叶えてくれたような、とても嬉しい夢。 絶望の淵に沈められ、暗闇の底で藻掻きながら必死で伸ばした僕の手を、掴んで引っ張り上げてくれたのが──ハイジだった。 ずっと、待ち望んでいた。 助けに来る筈なんてないと、心の何処かで諦めながらも。 過去の記憶がそうさせているのだろうか。夢の中の出来事なのに、まだ感触が残ってるよう。 掴まれた手首も。耳元で囁かれた声も。重ねられた唇も。合わせた温もりも……全て。 「……!」 ふと、隣から感じる違和感。 布擦れの音がして直ぐ、人肌の温もりに包み込まれる。 怖ず怖ずと振り向いてみれば、そこにいたのは── 「……ぇ……」 僕の身体にしがみ付く、ハルオ。 ……どう、して…… 心臓が、止まる。 ドクドクと身体中の血液が逆上し、指先から感覚が無くなっていく。 定まらずに揺れる視界。息を飲み、瞬きも忘れ、目の前にあるその寝顔から──目が離せない。 「……ん、さくら?」 目を擦りながら、眠たそうにハルオが呟く。 上掛けが開け、細身ながらしなやかな筋肉の付いたハルオの裸体が露出する。 その瞬間──真っ白になっていた僕の脳裏に、昨夜の出来事が走馬灯のように駆け巡る。 ……ハイジじゃ、なかった…… それまで浸っていた心地良い感覚が、風に靡くレースカーテンの如くスッと手中から滑り落ちていく。 「おはよう」 そう言って薄く瞼を閉じ、何の抵抗もなくハルオが唇を寄せる。 戸惑いつつも、平静を装って己の唇の前に手のひらを|翳《かざ》す。 「……何を今更。昨日散々、したじゃないか」 手首をそっと掴まれ、阻止したその手を退かされれば、クスッと穏やかに微笑んだハルオの唇が迫る。 「……」

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