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第6話

××× 「ただいま」 凌が出ていって暫くすると、ハルオが帰ってきた。 「……」 玄関先まで出迎えれば、靴を脱いで上がったハルオが、僕の背中に片腕を回して抱き締める。 「ごめん、遅くなって」 「……」 「はい、これ。一緒に食べようと思って買いに行ったら……思いの外遠くて」 身体を離したハルオが苦笑いをし、持っていたケーキ箱を僕に寄越す。 「……」 「雑誌に載る程、有名らしいよ。さくらは、知ってる?」 言いながらフード付きのパーカーを脱ぎ、リビングへと足を踏み入れる。受け取った箱をもう一度確認してみるけど、刻まれていた洋菓子店のロゴは見た事もないものだった。 「……わぁ、今日も美味そうだな」 パーカーをハンガーに掛け、ガラステーブルに並べられた料理を見たハルオが顔を綻ばせる。 「毎日幸せだよ。……疲れて帰ってきた俺を、さくらが出迎えてくれて。美味しい手料理まで食べられるなんてさ」 「……」 一体、どんな気持ちで言っているんだろう。 僕を、通い妻をしていたというセフレの人の代わりにしてる……? 重く嫌な感覚が、身体中を駆け巡る。 「今日、何かあった?」 食卓を囲んで開口一番、ハルオがいつもの台詞を吐く。 「……」 ……何か、って。 この何気ない一言が、僕を憂鬱な気分にさせる。 「学校で何か、変わった事は?」 肉じゃがを箸で突きながら、ハルオがまたいつもの台詞を投げかける。 「……別に、何も」 「本当に?」 答えて直ぐ、探るような問いかけ。その刹那、喉の奥がキュッと締まる。 「うん……」 ……何か、疑ってる? 答えながら、椀を持って味噌汁に口を付ける。 「……」 暫く僕の様子をじっと窺っていたハルオが、スッと視線を外す。そして茶碗から椀に持ち替え、僕と同じように味噌汁を啜る。 ズズ…… 「……」 全ての行動を監視されているかのようで、居心地が悪い。 「今度の休み、二人で買い物に出掛けないか?」 「……」 澱んだ空気を払拭するかの如く、ハルオが再び口を開く。だけどその声に余裕はなく、かえって落ち着かない。 「いつも俺を支えてくれるさくらに、何かプレゼントしたいんだよ」 「……」 「服とか、どうかな。……余り持って無かったよね」 ハルオが、気遣うように僕の顔を覗き込む。 「……」 一見、選択肢がありそうな台詞。でも僕には、最初から選択肢なんてない。 「………、うん」

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