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第7話
*
「……」
テーブル前に座り、名刺をじっと見つめる。
あの後──凌が後輩二人を引き連れて来ると、宴会が始まった。
その間、足りなくなった|料理《つまみ》を作ったり、下げた皿を洗ったりと、殆どキッチンに篭もっていたからか。僕を気遣った凌が、一緒にと声を掛けてくれた。
緊張しながらも、その輪の中に入ってしまえば……思っていたよりも居心地が良くて。楽しい時間を過ごせたと思う。
『ほんまありがとうな、さくらちゃん。お陰で愉しい会になったわ』
二時間程でお開きとなり、ぞろぞろと後輩達が玄関へと向かう中、一人片付けをする僕に凌が声を掛ける。
『準備、大変やったろ。少ないけど、ほんのお礼や』
そう言って渡されたのは、白くて小さなポチ袋。
『……あの、』
背を向け、後輩達の後を追うように玄関へと向かう凌を呼び止める。
「……」
だけど結局、相談できなかった。
名刺を見つめたまま、小さな溜め息をつく。
僕が、芸能プロデューサーに連絡するなんて……余りに別次元すぎて、全然現実味がない。
もしこのまま、煌びやかな光に溢れた表舞台の世界に飛び込んでいったとしたら……きっと僕は、溶けて消えてしまうんじゃないか。
そんな馬鹿な事を考えながら、テーブルの端に名刺を置こうとした──時だった。
『それでは、本日のゲストはこちら!
いま最も注目を浴びているイケメン若手俳優、黒咲アゲハさんでーすっ!』
お笑い芸人らしき男性の、抑揚ある声につられてテレビ画面を見れば、そこに映し出されていたのは──
「……え……」
垢抜けた髪色。スタイリッシュな衣装。
切れ長で優しげな二重。スッと細く少し低めの鼻。綺麗に口角が持ち上がり、爽やかな笑顔を振り撒く──アゲハ。
……な、んで……
光溢れる世界にいながら、褪せる事なく輝いていて。
それは──ハロウィンの夜。他のホスト達を引き連れ、大名行列をしていた煌びやかなアゲハ、そのもの。
きっとその輝きを保ったまま夜の世界を舞い飛び、人々を魅了させ……この輝かしい世界へと導かれたんだろう。
狭くて暗い水の底に沈んだ、僕の事なんか忘れて──
「……」
それまでの出来事が思い出され、じわじわと腹の底から憎悪が沸き立つ。
名刺を持つ手に力が籠められれば、くしゃっ、と端が歪む。
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