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第12話 化学教師

××× 週明けの学校。気怠い午後の教室。肘を付き、窓際の席からぼんやりと外を眺めていれば、ふと昨日の事が思い出される。 『一緒に暮らせない』──そう言い放つと、膝から崩れ落ち、泣きながら僕の膝に縋り付くハルオ。 何故か、それが凄く小さなもののように見えて。不思議と以前より、恐怖心が薄らいでいる事に気付かされる。 「……」 ガヤガヤ、ガヤガヤ…… 相変わらず、僕を遠巻きにするクラスメイト。それ以上でも以下でもない、一見平和な教室内。 本音を言えば、学校なんかどうでもいい。義務も権利もいらない。大切な場所だとも思わない。 それでも、登校し続けるのは──ハイジと約束したから。 役目を終えて僕を迎えに来るとしたら、きっと学校(ここ)なんじゃないかって。 「……」 でも。今日登校したのは、それだけが理由じゃない。 アゲハに近付く為に、僕を踏み台にしてきた汚い奴等の中に混じる事で、泣き崩れたハルオを無慈悲な目で見下げた冷酷な僕の心を、少しでも隠せるような気がしたから。 * 「……工藤」 放課後。ショルダーバッグを肩に掛け、玄関へと向かう僕を誰かが呼び止める。振り返って見れば、それは──見知らぬ男性教師。 「ちょっと、手伝ってくれないかな?」 細身で長身。丸い細渕眼鏡。後ろで一つに束ねた、少しぼさついたセミロングの黒髪。前を全て開けた、裾の長い白衣。 ぽわぽわとした柔らかな笑顔。穏やかな声。僕に手招きするその男性教師は、他の先生とは少し毛色の違う、不思議な空気感を纏っていた。 「こっち……」 「……」 返答していないにも関わらず、くるりと背を向け、白衣の裾を靡かせながら廊下向こうへと歩いていってしまう。 「……」 まさか、このまま無視して帰る訳にもいかず。渋々教師の後をついていく。 案の定。辿り着いたのは化学実験室。 六人掛けの白いテーブルが六つ等間隔に配置され、使い終わった実験道具がその上に乱雑していた。 「これを一緒に、片付けてくれないかな?」 そう言って悪びれる様子もなく、ふんわりとした柔らかな笑顔を向ける。

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