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第26話
「……そうだね」
白い歯を見せ、樫井がさらりと答える。
「アゲハの、何処がいいの?」
「……顔。それと、凜とした姿かな」
「……」
「人当たりは良いのに、誰にも心を開いてないんだよ。
でも、そんなアゲハがドラマ撮影で俺に向けた表情は……無防備で。可愛くてさ──」
「……」
アゲハの話をふった途端、饒舌になる樫井。開き直ったのか。それまで感じていた上っ面な表情が取り払われ、温かみのある優しいものに変わる。
それはまるで、アゲハの話題で盛り上がる、クラスの女子達のよう。
「……お願い。
僕の事、アゲハって呼ばないで」
目の前にいる僕をさし置いて、一人話を弾ませる樫井にわざと擦り寄る。
「……ん?」
懐に入って顔を埋めれば、樫井が戸惑った様子をみせる。が、直ぐに僕の背中に腕を回し、手のひらを当て、宥めるように優しく撫でる。
「……」
僕のこの行動を、樫井はどう捉えたんだろう。
可愛いと思ったのか。
それとも……このまま手懐けて、上手く丸め込もうと企んでいるのか。
そんな事、僕にとってはどうでもいい──
「だって、アゲハは……僕のお兄ちゃんだから……」
早速、爆弾を投下してやる。
か細い声で拗ねるように。樫井に甘え付きながら。
その瞬間──樫井の手が止まる。
胸元から伝わる心臓の鼓動が大きくひとつ打ち、速くなった気がした。
「……ん、わかったよ。さくら」
そう囁いた樫井が一度手を離し、僕の横髪にそっと触れる。指を差し込んでゆっくりと梳きながら、後頭部を包み込む。
「……」
ブレない声色。動じない反応。
嘘をついたと思って、軽く受け流したんだろう。
もしかしたら、以前にも同じ事を言われたのかもしれない。
「……、」
そうか……恐らく樫井は、今までも芸能人という立場を利用して、色んな人を喰い物にしてきたんだ。
アゲハに似た容姿の人物を物色し、罠に嵌め……溢れる欲求を満たす為だけに、アゲハの身代わりとして性行為に及ぶ。
そして事が終われば、同意の上だったと相手に思わせるべく、優しく扱う。
その一連の流れが、随分と手慣れているように感じる。
これまで一体、どれだけの人が犠牲になったんだろうか。
「それにしても。アゲハにさくらって……二人とも、女の子みたいな名前だね」
くすっと笑い、樫井の手が再び僕の後ろ髪に指を差し入れ、優しく梳く。
「……」
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