27 / 52

第27話

『兄弟揃って、女みてぇな名前だな』 ふと思い出される、竜一の台詞。 初めてを奪われたあの日──ベッドの外で煙草を吸う姿や、不器用に笑う表情の竜一が脳裏に浮かぶ。 『……俺は、アゲハが嫌いだ』 ハロウィンの夜──集団レイプに遭い、ボロボロになった僕を支えた竜一が、気まぐれに吐いた台詞。 「……」 あの言葉の真意は、今でも解らない。 それでも……思い出す度に、胸の奥が柔らかく締め付けられてしまう。 額面通りであったらどんなにいいかと、心の何処かで願いながら。 * 「……」 気が付けば、カーテン越しに射し込む柔らかなオレンジ色の光が、部屋全体を照らしていた。 もう、こんな時間か…… 酷く怠い。 身体が鉛のように重たい。 撮影現場へ向かう樫井からタクシー代を貰い、何とかアパートには帰れたけど。……それからずっと、眠ってしまっていたみたいだ。 毛足の長いラグマットの上に横たわったまま、ゆっくりと瞬きをする。 ……でも、もう出掛けなくちゃ。 軋む身体を何とか起こし、鏡の前でラックハンガーに掛かった学生服に着替える。 「……」 新たに付けられてしまった、首元のキスマーク。白シャツの釦を一番上まで留めて、その事実ごと隠す。 近所のスーパーに立ち寄ってから、凌のマンションへと向かう。 その道中、買い物袋をぶら下げ信号待ちをしていると、何やら燥ぐ女子高生達が背後から近付き、隣に並んで立ち止まる。 「大人っぽくて格好いいって言えば、やっぱ黒アゲハじゃない?!」 「えー。私的には格好いいっていうより、可愛い系?」 「……それ、君恋(キミコイ)陽咲(ひなた)に引っ張られすぎだから」 「王子は、マジで別格なの! 私、実は黒アゲハと同じクラスだったんだけど──」 「ていうかぁー。樫井秀孝くんの存在、みんな忘れてなぁーい?」 キャアキャアと騒ぎながら、アゲハと樫井の話題で盛り上がっている。 陽咲というのは、君恋というドラマの配役名なのだろう。 「……」 もし隣にいる僕が、アゲハの弟だと知ったら。樫井に散々犯されたと知ったら。 ……彼女達は、一体どんな反応をするのだろうか。

ともだちにシェアしよう!