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第49話

担がれたまま、部屋を出る。 ダイニングテーブルと応接ソファの間にある広いスペースで、見るからにガラの悪そうな男達が凌と水神を取り囲んでいた。 その脇を通り過ぎ、キッチンスペースの入り口とは反対側にあるシャワールームのドアを、竜一が器用に開ける。 「……脱げ」 脱衣所の床に下ろされて直ぐ、身体に纏っていたシーツを引っ剝がされる。 肌の表面を擦りながら、スルリと足元に落ちるそれ。見れば点々と、鮮血が生々しく滲んでいた。 カチャン、 浴室のドアを開いた竜一に、半ば強引に押し込められる。 ……もしかして…… 思い出される、ハロウィンの夜の出来事。ホテルの浴室での行為。 淡い期待を抱きつつ、奥へと進んでいけば、突然、ぴしゃりと閉められるドア。 「……」 ……息が止まる。 拒絶されたようで、胸が締め付けられる。 振り返らなくたって解る。もうそこに、竜一の姿はないって。 ザァァ…… 落胆する手でコックを捻り、熱いシャワーを頭から被る。 肌を纏いながら流れ落ちる湯水。頬や額に張り付く髪。ぽたぽたと毛先から垂れる雫。……まるで、僕の代わりに涙を流しているみたい。 身体に残る、竜一の温もり。 トクトクと震える心音。 大きな手。息遣い。 心地よい……竜一の匂い。 もっと、竜一に触れられたかった。 痛くされてもいいから……あの時みたいに、僕を…… ザァァァ…… 寂しそうに震える身体を、ギュッと抱く。 「……」 ……解ってる。 僕を助けてくれたのは、僕がアゲハの弟だからだ…… そう頭では解っていても、心が追いついていかなくて。こんなに冷たく突き放されても……まだ、心の何処かで淡い期待を抱いてしまう。 ……そんなの、苦しいだけなのに。 「……あ、」 シャワールームを出ると、脱衣所にモルの姿があった。 「すいませんっ。着替えを、持ってきただけッス」 一糸纏わぬ姿の僕に、サッと背を向ける。 棚に置かれたのは、折り畳んだ服と下着。襲われた時の衝撃が襲い、ブルッと身体が震える。 「それと、リュウさんから言伝を預かってます」 バスタオルを取り、身体を拭いていれば、此方に背を向けたままモルが続けて言う。 「『お前の世界に帰れ』って」 ……え…… 再び突き放され、胸の奥が抉られる。 「……」 じわりと滲む視界。眼の際が次第に熱くなり、次々と大粒の涙が零れ落ちていく。 「──だ、大丈夫ッスか?! どこか、痛むんスか……?」 異変に気付いたモルが振り返り、慌てた様子で僕に話し掛ける。 「……」 何でもない──そう言いたいのに。中々言葉が出なくて。 ただ横に、頭を振る事しか出来なかった。

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