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第3話
◇
生田に最低な想いを抱いたからか、罰が当たった。もう何年も引いたことがなかった風邪を拾ったのだ。
久しぶりに着けたマスクは息苦しいし、咳は止まらないし、これは授業中いやがられるな…と思いながらも、熱がないので一応学校へと足を向ける。熱は無いが怠い躰は思考も鈍くさせる。
ぼうっとしながら歩いていたから、いつの間にか隣に立った室屋に気付かなかった。
「大丈夫? 風邪ひいたの?」
話しかけられて漸く存在に気づき、俺は肩を跳ねさせた。
「おっ、びっくりした…」
「ぼーっとしてたね」
ふわりと表情を崩した室屋に、なんだか違和感を覚える。
「あれ、生田は?」
そうだ、いつも生田が先に俺を見つけて飛んできて、それから室屋が…。
「今日は調子が悪くてね、お休みすることになったんだ」
困ったような表情になった室屋に、俺は思わず言葉を漏らす。
「お前、一緒に休まなくて良かったの?」
それを聞いた室屋が驚いたように目を見開いた。
「いや、えっと…奈央にはちゃんと奈央の家族がいるからね」
「まぁそうだけど。でも、なんか室屋って生田がいないと生きていけなさそうだし。常に生田の家に入り浸ってそうだから」
話しながらゲホゲホっと咳き込んだ俺を労わって、背中をさする室屋の頬がほんのり赤い。
「俺ってそんな風に見えるの?」
「見える」
ハッキリ答えてやれば、室屋はえー? と高校生らしい不満を漏らした。
「室屋には、生田さえ居ればいいって感じする」
「え、そんな?」
「そうだよ。お前らの距離、ちょっと異常だし。女子も陰で騒いでる」
少し意地悪だったかもしれない。俺の言葉はもう、全部嫉妬にまみれてる。
「あと、俺にはこの手いらないから」
咳き込む俺の背中をずっとさすっていた手を退けると、室屋が小さくごめんと呟いた。
いつも細かく世話を焼いて手が塞がっているからか、空いてしまった手のやり場に困っている。好きにさせておけば良かったのかもしれないけど、俺は、その手が欲しいけど…欲しくないんだ。
だって、いつだって室屋のその手は、生田を探してる。
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