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第23話

「……」 何処か遠い目をしていた若葉が、一瞬だけ視線を僕に向ける。 その目はナイフのように鋭くて。無機質で。冷ややかに光ったように見えた。 「母は、達哉に執着してたの。異常なまでにね。 毎晩遅くまで勉強させて、いい大学に行かせようと必死だったのよ。それに答えようとする達哉は……傍から見ていて、とても可哀想だった」 「……」 「その達哉に話し掛けて、気を散らす僕が……きっと気に喰わなかったんだと思うわ」 「……」 ……そんな。 たった、それだけの理由で…… 当時の父や若葉の心情を思うと、胸の奥が締め付けられる。 あの写真立てにある笑顔の裏に、そんな事情を抱えていたなんて。 僕なんかとは違う。 仲の良い兄弟以上の、強い絆を感じる。 お互いがお互いを必要とし、支え合って生きてきたんだろうな…… 「……」 でも。 そんな父を、僕が死なせてしまった。 僕が生まれてきてしまったせいで。僕のせいで、大切な人を── 『お前なんか、産まなきゃよかった──!』 鬼のような形相で、僕の首を絞める母。 あんな風に、僕を恨んでも仕方がない筈なのに。どうして若葉は、こんな僕を引き取ろうと思ったんだろう。 引き取る気に、なったんだろう…… 「さくらは?」 不意に尋ねられ、ハッと我に返る。 写真立てから若葉の方へと視線を移せば、口角を緩く持ち上げ、当然僕と同じでしょと言わんばかりの眼つきをしていた。 「アゲハとは、今でも連絡を取り合ってるの?」 そう聞かれて、言葉に詰まる。 若葉は……知らない。 僕とアゲハの間に何があったのか。もう既に、埋まらない溝が存在している事なんて。 「……いえ。去年の春頃、家を飛び出してからは……全く」 向けられる視線から逃れられず。若葉を見つめたまま小さく首を横に振る。 「そう……。確かに人気俳優になっちゃったから、中々難しいわよね」 「……」 「でもね。兄弟は、親よりも長い付き合いになるのよ」 溜め息混じりにそう言った若葉の瞳が、物憂げに細められる。 「だからもっと、仲良くしていて欲しいの。……僕と達哉みたいに」

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