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第24話 雨と御守り

××× ──雨。 いつの間に降り出たんだろう。 冷蔵庫の食材が足りない為、買い出しに行かないと……と腰を上げた矢先の、しとしと雨 カーテンを閉め、細雨とガラス窓に薄ぼんやりと映る僕の顔を隠す。 『……暫く、学校休んだら?』 引っ越して初めての週明け。髪を後ろに束ね、細身の黒いパンツスーツを着た若葉が、学校へ行く準備をする僕にそう言ってくれた。 僕の顔色が優れず心配だったらしい。あれから暫く、学校へは行っていない。 「……」 あと、少し。 樫井秀孝のニュース報道が収まるまで。あともう少しだけ…… 部屋の隅に腰を下ろし、畳んだ膝を抱えて背中を丸める。 ……って、変なの。 心の中でそう言ち、何処か他人事のように口の片端を少しだけ持ち上げる。 折檻部屋に閉じ込められていた頃は、嫌だった筈なのに。今は……自ら閉じ籠もりたいだなんて。 だけど、ここは折檻部屋とは違う。 実際にそんな記憶なんてないけれど、母親の胎内のよう。臍帯の繋がった赤ん坊に還り、温かくて大きなものに包まれてるみたいで安心する。 「……」 ここに引っ越してくるまで、本当に色んな事があった。 束縛や裏切り、レイプ──それでも、母のヒステリックに比べたらまだマシだ。 いつだってそう。自分に言い聞かせ、気持ちを奮い立たせて耐えてきた。精神を守る為に。心を保つ為に。そうしないと、生きていけないと思ったから。 これは只の想像だけど。人はこの世に生を受けた時、運命……というか、宿命みたいなものを与えられるんだと思う。例えるならそれは、双六ボードのようなもので。マス目に良い事が多く書かれたもの、そうではないものがランダムに授けられる。 でも、それだけで全てが決まる訳じゃなくて。自身が振って出す賽の目で、人生が刻まれるんだと思う。 だから、例え良いマス目の多いボードを授けられたとしても。出目によって良くない人生を送る事になるし、その逆も然り。 僕は……どうなんだろう。 これまでを振り返っても、きっと良くない方のボードなんだろう。だけど、悪いマス目ばかりに止まってはいないと思う。 あの暴漢に襲われなかったとしても、若葉には出会えたかもしれない。でも、樫井秀孝の被害者リストが流出しなければ──そもそも被害者にならなければ、若葉は僕を捜そうとはしなかったと思うから。

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