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第25話
チリ、チリン……
玄関の外に出て、鍵を閉める。その作業中、キーチェーンにぶら下がるピンク色の丸い鈴が連動し、可愛らしい音を鳴らす。
『もし、買い出しに行くなら……これ使って』
スーツ姿の若葉から渡されたのは、和柄のがま口財布とスペアキー。
『玩具じゃないわよ。これはちゃんと神社にお参りした時に買った、厄除けの御守りなんだから』
『……』
『きっと、さくらを守ってくれるわ』
チリン……
その鍵にぶら下がる鈴をじっと見つめる僕に、若葉が柔らかな言葉を掛けてくれた。
「……」
鍵を財布の入ったジーンズのポケットに押し込み、外階段を下りながらビニール傘を差す。
空に厚く重く沈み、辺りを灰色の世界へと変貌させる黒い雲。降り続くしとしと雨。
空気は冷たいのに、湿気を帯びているせいか。少しだけ息苦しい。
傘のビニール部分に当たって跳ねる雨音を聞きながら、細い裏路地を抜けて車の往来が多い大通りへと出る。
凌の居た、高層マンション。
存在感のあるその建物が視界に入る。
「……」
直ぐに目を伏せ、傘を少しだけ前に傾げる。
サァ──ッ
……自殺……
モルから聞いたその情報が、僕の心に重くのし掛かる。
僕と出会ってしまったせいで……いや。僕が居なくても、モルを潜入させた時点で結果は変わらなかったかもしれない。
……僕のせいじゃない。
いいよね、そう思っても。
凌だって……僕を騙して嵌めようとしたんだから。
目を伏せたまま、マンション前を通り過ぎる。モヤモヤしたものを飲み込みながら。
平日の昼間。それも雨の日だというのに、カートを押す客がぼつぽつといた。
凌のマンションに通っている頃から利用していたこのスーパーには、あの頃と同じ顔触れの店員やお客さんを見掛ける。
「……」
気にしすぎ、なのは解ってる。でも……人から向けられる視線が、怖い。
僕が凌と関わっていた事も、樫井秀孝から性被害を受けた事も……きっと知らない。
そう割り切れてしまえたらいいのに。ネットに流出したらしい被害者リストのせいで、不安が募る。
もし、僕を知っていたら。
後をつけられて、アパートを特定されて。若葉にまで被害が及んでしまったら。
……怖い……
回りを警戒しながら、商品をサッとかごに入れる。
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