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第64話

若葉にとって、究極の愛の形が──“心中”なのだろうか。 それとも。自身が望んでいたとはいえ、達哉に似ているアゲハを独占した僕への“嫉妬”か。 何方にせよ、若葉は僕を間接的に殺そうとしてる。 「……」 何の躊躇もなく達哉(愛する人)を殺せる若葉なら、アゲハの首を掻っ切る事ぐらい簡単だろう。……だけど、自分の命と引き換えに、アゲハが僕の首を絞めるとは思えない。 「……ねぇ、アゲハ」 緊迫した雰囲気の中、瞳を合わせたまま敢えて話し掛ける。 「十字架のピアス、覚えてる?」 「……ピアス……?」 「うん。中学の卒業間近に、付けてたでしょ」 「………あぁ、あれか」 それまで強張っていたアゲハの顔が、少しだけ緩む。 「あのピアス、本当は僕のだよね?」 「……」 少しだけ意地悪く核心を突けば、僅かに瞳を揺らしたアゲハが寂しそうな笑みを溢す。 「まだ、持ってる?」 竜一とお揃いのピアス。……もしかしたらもう、捨てられてしまっているかもしれない。 「うん。箱に仕舞ってあるよ」 「……良かった」 静かに答えてくれたアゲハの台詞に、杞憂だったと気付かされ、安堵の溜め息をつく。 「後で……返してね」 きっと訪れないだろう、未来の話。 そこに希望があるかどうかなんて、解らないけど。そんな未来を願うだけなら、いいよね…… 睫毛を半分ほど下ろし、顎を少し持ち上げ、アゲハに首を差し出す。 「………っ、さくら」 瞬間──アゲハの顔色が変わる。 眉間に刻まれる皺。少しだけ吊り上げる目尻。苦しそうに何度も繰り返される荒い呼吸。 なのに。その瞳は寂しそうに揺れて─── ……え…… 腰が動き、繋がっていた怒張(モノ)が引き抜かれる。と…… 「───逃げろッ!!」 勢いよく身体を起こし、背後にいる若葉を突き飛ばす。 その時──喉元に当てられていた刃が横に引かれ…… ───ビヂュァッ、 顔面に掛かる、血飛沫。 生暖かさを感じ、ガクガクと身体が震える。 「……」 はぁ、はぁ、はぁ…… 呼吸が整わぬまま、薄闇の向こうへと目をやれば── 「───達哉あぁぁ、!!」 頭を上げ、長い髪を振り乱す若葉の影が、踞っていたアゲハの身体を抱き寄せて包む。 首元を押さえた手。その指間から溢れる、血── 「……」 仰向けられ、正座をした若葉の膝枕に頭を乗せられたアゲハと、一瞬だけ目が合ったような気がした。

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