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第21話

……どうしたんだろう…… 僕、おかしくなったのかな。 若葉が部屋を出た後も、暫く疼いてしまう感情。 こんな風に、本能を掻き立てられた事なんて今までにない。……そもそも、僕にはそういう感情が備わってないんだと錯覚する程、乏しい方だと思っていた。 思い返してみれば、若葉の布団に潜った時──今のような昂りが続いて、中々眠れなかった。 濃厚で甘っとろい若葉の匂い。熟れた果実のようなその匂いを嗅いだ途端、身体の奥底に眠っていた本能が呼び覚まされ、僕が僕で無くなってしまうような恐ろしい感覚に襲われる。 「……」 それを、強い理性で抑え込む。 今のこの関係を、壊したくない。 親子のようなこの繋がりを……大切にしたい。 部屋を出て、キッチンを覗く。 ガス台の前に立つ若葉の後ろ姿が目に映り、そのまま静かに見つめる。 低い位置でお団子に纏めた髪。身体が揺れる度に、緩やかな弧を描いたその毛先が、若葉の細くて長い項を擽る。 「……」 匂い、だけじゃない。 そういう気持ちがある訳じゃないのに。若葉を纏う大人の色気のようなものに、どうしても魅せられてしまう。 「……あの、」 思い切って声を掛ける。が、別段驚いた様子もなく、若葉が少し頭を傾げて此方を見る。 「あの、何か……手伝います」 「……」 色気を含む流し目。視線と視線がぶつかり、戸惑いながら左右に散らす。 「それじゃあ……どんぶりをふたつ取ってくれる?」 「……はい」 若葉に背を向け、食器棚からそれらを取り出す。作業の邪魔にならないようキッチンカウンターに並べて置けば、流しで台拭きを洗っていた若葉が此方に身体を向けた。 「ありがと。そしたら、テーブル拭いてお箸を並べて頂戴」 「……はい」 固く絞ったそれを手渡され、直ぐにキッチンを出る。 「……」 出汁の匂いに混じって籠もる、若葉の官能的な匂い。そこから解放され、真新しい空気を胸いっぱいに吸い込む。 小さなテーブルを拭きながら、このまま若葉と住み続けても大丈夫だろうかと、少しだけ不安が募る。

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