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第37話

夜が深まった頃、警察に入った一本の電話。 現場となったのは、バイト経験のある純喫茶。立ち入り禁止区域手前を陣取るマスコミ群。群がる人集りに足を止め、様子を窺う通行人。それらを牽制しながら、警察車両に連行される犯人の姿を見た。 『……』 フードを目深に被り、両脇を抱えられながら歩いていたのは──頭から血を流し後輩の足下に転がっていた、あの少年だった。 一体彼に、何があったのか。何故拳銃を所持していたのか。事件を起こしたのか。……後輩とは、どういう間柄だったのか。 ざわつく人混み。一斉に焚かれるフラッシュ。曝かれたフード下には、幼顔ながら肝の据わった鋭い目付き──全てを諦め、悟りきったような表情をしていて。後部座席に押し込められ大人しく搬送されていく彼を見届けながら、そんな思いを巡らせていた。 ざわざわ……ざわざわ…… 救急隊員によって撃たれた女性従業員が担ぎ出され、サイレンを鳴らしながら救急病院へと運ばれていく。 騒然としていた現場から、マスコミや野次馬たちが次第に(ばら)けていく中、現場に残り雑務を熟していた岩瀨の背後に何かが張り付いた。 『……先輩の、せいですよ』 突然、耳元で囁かれる声。 その刹那、背筋が凍りつく。 『どないしてくれんですか。アイツ、捕まってもうたやん』 耳馴染みのある、軽やかながら闇を孕む可笑しな関西弁。 『ずっと前から相談したいことがあるって……俺、言いましたよね。 話、ちゃんと聞いてくれんかった結果が、この有様やないですか』 『……』 『警察は、何かが起きんとなーんもしてくれへんから。思い詰めた挙げ句、実行してもうたんやろうなぁ。……可哀相に。先輩が少しでも耳傾けとったら、こんな事件は起きんかったやろうな。腹に風穴空けられたあの娘も、苦しまずに済んだと思うで』 ──バッ、 勢いよく振り返る。が……そこに人影は無かった。 「俺の弱い心が、そうさせていただけなのかもしれません」 「……」 グツグツの煮える鍋。 残りのビールをグイッと煽ってから、気持ちを吐き出すように岩瀨が続ける。 「先輩の言う通り、俺は奴に心を取り込まれてしまっていたんです。……例え、連絡を断ち切っていたとしても」

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