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第47話

「お前の方は、どうなんだ」 「……え」 突然振られ、視線を揺らしながらペットボトルを持つ自分の手元に落とす。 「学校、とかよ」 「……ちゃんと、通ってる」 「そうか」 「ん」 「嫌な事、されたりしてねぇか?」 「……」 「色々あったからよ。邪な目で見てくる野郎の一人や二人、いるだろ」 そう言いながら前屈みになった竜一が、僕の顔を下から覗き込む。 「……」 ……別に。そういうのは、ずっと前からあったから。マスメディアやSNSで僕の情報が拡散された時の方が、精神的に堪えたかもしれない。 そんな中でいつもと違った出来事といえば、真面目を絵に描いたような男子生徒に、僕は── 「初めて、告白された」 「………あ″ァ?!」 ボソリと口から溢れてしまえば、目を眇めた竜一が険しい顔つきに変わる。 だけど、何でだろう。怖いというより、少し拗ねたように見えて。……少しだけ、可愛いと思ってしまった。 「僕ね、その告白を受けて気付いたの。竜一に『好き』って言ってなかったって」 『好き』──その言葉を口にした途端、それまで胸の奥に押し込めていた想いが一気に押し上がり、止められない。 「初めて乱暴された時、確かに怖かった。 でも、何でかな。竜一に抱き締められた時……嬉しかったの」 「……」 「痛くて痛くて、辛い筈なのに。背後から抱き締められた瞬間、大きなものに包み込まれたみたいに温かくて。心地良くて。 上手く言えないんたけど。あんな風に抱き締められたの、初めてだったから。……嬉しかったの」 蘇る、あの温もり。 あの一瞬は僕にとって、大切な宝物だったから── 「だからね。これが、本当はアゲハに向けられたものだと思ったら──」 「待て! 何でそうなるんだ!」 ドスの効いた低い声で、僕の言葉を遮る。見れば竜一の目尻が少し吊り上がり、信じられないと言わんばかりに僕をじっと見据えていた。 「………だって。アゲハと同じピアスをしてたから。それに、僕の項を触って、『アゲハに似てる』って。……だから、僕を身代わりに──」 「あーあー、悪かった!」 被せる様に強く言い放ち、竜一が僕から視線を逸らす。 「一目惚れ、だったんだよ……お前に」 ……え…… 照れたように前髪を掻き上げ、ボソリと呟く。 見れば竜一の浅黒い肌色の頬が、ほんのりと赤い。

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