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第49話
竜一と過ごした時間は、ほんの数十分。濃密だったからこそ、もっと短かったように感じる。
ライティングデスクに置かれた、飲みかけのミネラルウォーター。煙草の残り香。
少し前まで、ここに竜一がいた。
「……」
淋しくないと言ったら、嘘になる。
やっと竜一の本心を聞けたのに。気持ちが通じあったのに。こんなにも早く、離れなくちゃならないなんて。
まだ唇や咥内に、竜一の感触が残ってる。太くて低い声も。匂いも。温もりも。息遣いでさえも……この身体全てに、竜一がちゃんと刻み込まれてる。
この心地良い余韻が、いつまでも消えなければいいのに……
「……」
竜一が座っていた所に、そっと手を伸ばす。まだ仄かに温い。そこを優しく撫でた後、空っぽの温もりを抱いたまま横たわる。
『一目惚れ、だったんだよ……お前に』──少し照れたようにそう言い放った竜一を思い出し、きゅうっと胸の奥が柔らかく締め付けられる。
アゲハじゃない。最初から竜一は、僕だけを見てくれていた。
ずっと、僕だけを……
ふわっ、と心臓が柔らかな鼓動を打つ。
だけど、その浮ついたものとは相反する黒い感情が、腹の底からじわじわと湧き上がってくる。
「……」
もしあの時、アゲハが拒む事なくピアスを僕に届けてくれていたら──きっと、こんな回り道をしなくて済んだ。
この身体が、こんなにも穢れる事なんて無かったのに……
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