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第67話

ぶるぶるぶる…… 上手く手に力が入らなくて。可笑しいほどに身体が震えてしまう。 「……」 助かった……筈なのに。 今になって襲い掛かる、強烈な恐怖。 「もう、大丈夫ッスよ」 半ばパニックに陥り、酷く震えながら浅い呼吸を繰り返すだけの僕を──モルが抱き締め、優しく受け止めてくれる。 「……」 その温かさに、安心する。 太一の時も、凌の時も……モルはずっと味方でいてくれたから。 「大丈夫ッスから……俺のコート、着て下さいッス」 この異様な光景を目の当たりにした岩瀬が、僕とモルから離れ、閉じられた玄関ドアを開ける。 「………! 若葉さんッ!!」 脱いだ春コートを僕の肩に掛けてくれたモルが、岩瀨の叫び声に反応する。 「ちょっと、待ってて下さいッス」 コートの前を閉じたモルが、僕から離れ岩瀬の元へと走って行く。 「……」 ドア向こうに消えていく岩瀨。 それを追うモル。 その様子をぼんやりと眺めながら、ふと脳裏を過ったのは──闇の中で鋭く光る、凶器(バタフライ ナイフ)。 「……アゲハ」 唇から溢れ落ちる、弱々しい声。 袖を通さず、春コートの前を内側から合わせた状態で、二人の後に続こうと足を一歩踏み出せば── 「───来るなッ!」 僕の動きに勘付いたのか、モルが強い言葉で制す。 「っ、……」 その衝撃に、心が竦む。 普段は温厚で、明るく人当たりの良い口調なのに。その怒鳴りつけるような物言いに、僕自身が拒絶されてしまったようで……

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