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裏切りの代償1
「……なぁ、五千円貸してくんない?」
真っ白なスクールシャツの袖を通す昂祐 が、さらりと金の無心をする。
気怠い裸体をベッドに沈めたまま動けずにいる僕は、さっさと身支度を調える彼の立ち姿をぼんやりと眺めていた。
ツンと前髪を立たせた短い髪。
意志の強そうな太眉。
勲章の如く耳に連なるシルバーピアス。
背が高いのは勿論、広い肩にしっかりと根を張る太い首や強靱な筋肉のついた太い腕、綺麗に割れた胸筋と、男らしい色気と強さを兼ね備えている。
小学生でピアスを空け、髪を白金に染めていたという昂祐は、中学に上がる頃には派手な髪色を卒業。しかしガラの悪い先輩達とは縁が切れなかったようで、周囲から問題児扱いされていた。
一方僕は、昂祐とは何もかもが正反対で。貧弱な見た目と内向的な性格故に、昔から揶揄われたりいじめられたりしていた。
だからなのかもしれない。
僕には持っていないものを持っている昂祐が眩しくて。気付けば目で追ってしまう程、僕は彼に魅了されてしまっていた。
『……なぁ』
そんなある日。
遠くから眺めているだけの存在だった昂祐が近付き、僕に話し掛けてきた。
『お前、俺のこと好きだろ』
低くて格好いい声。
僕だけに向けられる強い眼。
手を伸ばしたら触れてしまいそうな程の至近距離に、心臓が大きく跳ね上がる。
その刹那──彼の周りだけが眩しい程に輝き、僕の頭の中で幸せの鐘が鳴り響く。
色めき立つ空気に浮かれてしまいそうになるのを必死で抑え、縋り付くような視線で昂祐を見上げる。
だけど。揶揄ともとれるその台詞に、どう反応していいか解らなくて。
まごまごしているうちに手を取られ、気付けば昂祐の家にいて、身体を迫られていて──
それからズルズルと、よくわからない関係が続いている。
「オイ、聞いてんのか?!」
突然の怒号にハッとする。
僕を見下ろす昂祐の目尻が吊り上がり、まるで汚物でも見るかのように眉間に皺が寄せられる。
「……う、うん……」
先程まであった僅かな熱が、無情にも奪われていく。
残されたのは、容赦のない虚しさ。
心が切り裂かれるような痛みを感じながらも、僕は彼の言いなりになるしかなかった。
嫌われたくない──ただ、それだけの理由で。
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