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4.
「さくらには、心の傷が癒えた所で会わせてあげるわ」
──カタンッ、
結局、カクテルを一度も口にする事なく、若葉がバーチェアから足を下ろす。
と、その細い手首を大翔が鷲掴む。
「……待て」
「……」
「親父と最期、何を話した」
その腕を強く握り、大翔が下から若葉を睨み上げる。
わざわざ呼び出されて、茶番に付き合ってやったんだ──そう言わんばかりの鋭い眼光。それは、もう冗談など受け付けない程鬼気迫っていた。
「知りたい? 知ったらきっと、後悔する事になるわよ」
「……」
飄々とした返し。
しかし、先程までとは違う──固い意志の中にある、同情の色が入り混じった瞳。
それ以上は踏み込めず、大翔は握り締めた手を緩めた。
カッ、カッ、カッ……
ヒールを鳴らし、体育教師の甥の前を横切った若葉が店を出る。
しかし、男はどっしりと構え、席を立つ様子も無く大翔の背中をじっと見据えている。
「……クソ、」
苦虫をかみつぶしたような顔をした後、ふと大翔の口元が綻ぶ。
それは、若葉との思い出に浸っていたのか。それとも、まだ見ぬさくらに会える未来を想像したのか──グラスを傾け、ジャズに酔いしれるように琥珀色のブランデーを煽った。
【end】
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