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「親戚の集まりがあった時、子供を抱いた葉月さんに……出産費用のお礼を言われたの。
あの時の光景は、忘れられないわ。
幸せそうな笑顔を浮かべて、若葉を私に……抱かせたのよ。
一体、どういうつもりで……
どうして私に、……あんな非常識な事を……」
「ごめん、母さん。……さっきは酷い事言って。
俺、全然知らなくて。
母さんがこんなに、苦しんでたなんて……」
達哉が膝をつき、母と視線を合わせる。
まるで僕の存在を、忘れてしまったかのように。
「……知らな、かった……
母さんが、こんなに苦しんでいたなんて……
ごめんなさい、母さん。
全部、僕のせいだね……ごめんなさい……
……ごめんなさい……」
ぴちゃ……ぴちゃ……
濡れた床に舌を這わせる。
ゆっくり、ゆっくり、丁寧に。
二人の目の前で──
「………わか、」
「イヤッ!」
僕の方へ近寄ろうとした達哉の手首を、母が必死に掴む。
「行かないで、達哉。
達哉だけは、私を裏切らないで……お願いよ。傍にいて」
「………」
───達哉。
達哉は、僕と同じだよね。
僕から離れない、よね……
苦しめて、仲を引き裂こうとするあの女を排除さえすれば。
今度こそ、僕と……
「大丈夫だよ、母さん。……傍にいるから」
「──!」
僕から目を逸らし、母を宥める達哉。
それに安堵し、口元を綻ばせる母。
……何で。
生い立ちには何一つ、僕に罪なんてないのに。
どうしてこの女は、僕から達哉を奪おうとするんだ。
……僕には、達哉しかいない。
達哉が僕の全てなんだよ。
その為に、僕がどれだけ──
「……だから、お願い。
もう、若葉に非道い事は……しないで」
「しないわ!……達哉が若葉と離れてくれるのなら、約束するからっ」
「解った。解ったよ……」
必死でしがみつく母を、達哉が宥めながら受け入れようとする。
僕の意見なんて、これっぽっちも聞かずに。……勝手に、話を進めて……
「………非道い」
こんな事をさせる母の傍に、何でいるんだ。
何で……僕に駆け寄ってくれない……
……達哉、忘れたの?
僕がこのクソ女から、どんな非道い目に遭わされたか。
ゴミ袋に詰め込まれ、捨てられた僕を見つけてくれたのは──達哉だよ。
達哉──
助けてよ。
また僕を、助けて……
「……なに、してるんだっ!」
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