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母の独白に、達哉が黙って傍で聞いていた。
……床に伏した、僕の存在など忘れて……
「でもある日──
他所で子供が出来たと打ち明けられたわ。
もうすぐ産まれるって。
それで、……その費用を請求されたの。
ショックだった。……許せなかった。
だけど、別れたくなかったの、真咲さんと。
……だから私は、そのお相手の出産費用を全額肩代わりしたのよ」
母の言葉に、達哉の顔に動揺の色が伺える。
「……その相手が、何処の馬の骨とも分からない女だったら、まだ良かったわ。
今でもそう思うの……若葉を折檻した後は、特に……」
「……その、相手………って……」
言葉を詰まらせ眉間に皺を寄せた母に、達哉がおずおずと口を開く。
それに引っ張られるように顔を上げた母は、真っ赤な目で達哉を見つめた。
「──妹よ。真咲さんの」
瞬間、達哉の表情が変わった。
弾かれたように目を見開き、信じられないと瞳が大きく揺れる。
………葉月が、妹………?
父は実の妹と、そういう関係になって
それで……僕が産まれた……のか……
「……ふ」
別に、大した事じゃない。
だって僕は、真咲とも関係を持ったんだから。
……それに、達哉とも……
「……ふふ」
ぴちゃ、……
笑いを堪え肩が震えそうになるのを抑えながら、濡れた床に顔を寄せ、舌を出して舐め取る。
達哉……僕を見て。
無実で可哀想な僕を……早く助けて。
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