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『……僕を、殺したバツだよ──』
床に目を向ければ、動かなくなった五才の僕が、澄んだ瞳を此方に向けた。
『お前はもう、達哉に愛される事はない。
……一生……愛されない……
だって、達哉が愛してたのは───この僕だったから』
………うるさいっ、!
達哉が愛してるのは、僕だ。
達哉は、いつだって庇ってくれる。
僕を選んでくれる。
……母よりも、僕を───
「母さんっ。……これは、若葉のせいじゃない……!
悪いのは、若葉を襲って写真を撮った相手だろ……?!」
すすり泣く母に、ピシャリと達哉が言った。
ダイニングチェアを引き、脱力しきった母をそこに座らせる。
「それを、若葉のせいにして……こんな事してる母さんの方が、異常だよっ」
『異常』という言葉に、母の肩がピクッと反応した。
虚ろな表情……
精気を吸い取られたように、一気に老け込んだように見えた。
「………そうよ……異常よ。
この家は、異常。オカシイ。
狂ってる……
どうして私が、あの子の母親にならなきゃいけないのよ………
どうして……?
……ねぇ、達哉──」
上擦ったように息をついた後
両手で顔を覆う母。
その肩は小刻みに震え、背中が小さく丸められた。
「──私は、何にも知らなかった……
知らないで、この家に嫁いだの。
真咲さんにプロポーズされた時、私は嬉しくて、舞い上がってて………子供だったわ。
真咲さんは私を選んだ訳じゃない。
選んだのは、私の家の財産。……最初から、ヒモになる為よ。
でも、それでもいいと思ってた。
達哉が産まれて……幸せだった」
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