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さっきまでしていた頭痛と吐き気がスッと消える。
何故だか解らない。
……けど、僕の中にあった、大切な何かが、抜け落ちるような感覚がした……
あんなに痺れていた手が、平常に戻る。
心の闇に、静寂が訪れる。
「……」
スッと立ち上がった母が、妙に冷静な顔で僕を見下ろした。
沈んだ色の瞳が、僕を捕らえて離さない。
その瞳の奥は、何処までも続く、深い……闇、闇、闇──
「何よ、その目は……!」
持っていた棒を振り下ろす。
空を切ったそれが、容赦なく僕の肩に当たった。
「猫なら猫らしく、ゴミならゴミらしく
そこに這いつくばりなさい……!」
まるで鞭のように。
金属の棒が、ヒュンッと音を立てて何度も振り下ろされる。
前に突っ伏して丸めた背中に、何度も何度も……
「……ふ、」
おかしい。
おかしくて堪らない。
「……ふふ、」
「何が可笑しいの!」
ヒステリックになり叫んだ母が、棒を振り上げた時だった──
「……母さんっ、!」
母の背後から、今し方階段から駆け下りた達哉に取り押さえられる。
「何、してるんだ……」
床に伏せたまま、腕の間から母の顔を覗き見る。
達哉の登場は、予測していなかったのだろう。
目をひん剝いて、口をぽっかりと開けて……まるで漫画。
大袈裟に驚いた表情が、おかしくて堪らない。
「達哉……!
……違うの、これは……、これは、ね……」
その母の視線がゆっくりと、テーブルの上に行き着く。
それにつられ、達哉の視線が動く。
「若葉が、あんな……
──あんな汚い事を、していたから……」
そこにあったのは、体育教師に襲われている……裸の僕の写真。
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