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「……早くしなさい!」 両手を床に付いたまま動かなくなった僕に、母は苛立った。 持っていた棒の先を僕に突き付け、鋭い形相で僕に威嚇する。 「……この薄汚い、ゴミ……!」 母の罵声は、膜が張られたように……よく聞こえない。 いや、全ての音……この空間が…… 何だかおかしい。 耳が、キーンとする。 ……はぁ、はぁ 全身から、汗という汗が噴き出していた。 なのに、身体の芯は妙に寒くて……震えが止まらい……… 浅い呼吸を何度も繰り返している。 何とか整えようとしても……中々落ち着いてくれない…… ──バシンッ 「……っ、!」 その時。 一際大きな音が鳴り響いた。 視界の隅の方で、母の持つ棒が床に叩きつけられている。 異質な音を放ったその棒はしなり 持ち上げられたと同時に……僕と同じように小刻みに震えていた。 その瞬間───張っていた膜が弾け、全ての音がクリアに戻る。 「………聞いてるの……?!」 ……はぁ、はぁ、 腕の力が抜け落ち、声を頼りに母の方へ、ゆっくりと視線を持ち上げる。 「やりなさい……早く!」 それがじれったかったのか──棒の先が顎下に添えられ、ぐっと持ち上げられた。 虚ろなまま母を見る。 輪郭が二重三重と見え、焦点が合っていない。 僕の下で静かになった──五才の僕。 光を含んだまま、此方を向いた瞳孔が開ききっている。 「………」 今までに経験したことのない、痙攣と痺れ。 「早くやりなさいよ。……ほら!」 言い切るか切らないうちに。 棒の先が、僕の喉元を強く突いた。 「……っ、!」 喉を、強く食い込む。 息もできず…… 突かれた一点に、硬さと痛みを残したまま…… 後ろに尻餅をついた。

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