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37-平凡DKのおれがアレを授かりまして/受溺愛男前くん×男ふたなり平凡くん

■36-平凡男子のおれがアレを授かりまして、と同名のキャラが登場しますが、各話そんなに繋がりはありません 「あ」 まさか中に誰かいるとは思わずに。 教室のドアを開け放った柚木(ゆずき)はその場で凍りついた。 期末テストを来週に控えた十一月の放課後。 帰りがけにコンビニへ寄り道して肉まんを買ったとき、教室にスマホを忘れてきたことに気がついた。 慌てて徒歩通学圏内の学校へ駆け足になって戻って。 高校二年生にしては体力がなく、どっと疲れ、校内ではヨロヨロ遅足になって、本館三階まで手摺りを頼りに階段を上って。 夕方五時過ぎの静寂に包まれた廊下を突き進み、蛍光灯の明かりが消されていた自分の教室のドアをガラリと開いてみれば。 男子生徒と女子生徒が二人、向かい合って立っていた。 男子生徒は柚木のクラスメートの比良(ひら)だった。 スラリとした長身で黒短髪。 キリッと凛々しく整った顔立ち。 ナチュラルな上がり眉が男前っぷりに磨きをかけている。 弓道部所属、男子個人戦で優勝経験あり、いつだって背筋ピーン、上級ルックスのみならず性格も穏やかで優しい、そして成績優秀、正に非の打ちどころなし、つまり学校一人気のある生徒だった。 そんな比良の前で、俯き、肩を震わせ、女子生徒は今にも泣き出しそうだった。 ……あ、これって、もしかして。 女子生徒は俯いたまま、どんっ、ドアのところで棒立ちになって障害物でしかなかった柚木にぶつかりつつ廊下へ走り去っていった。 鼻先でふんわり散ったバニラが強めのボディミスト。 ……ど、どないしよ……。 気まずい場面に遭遇し、何故か脳内で関西弁になって焦っている柚木に、おもむろに比良の声が届いた。 「ごめん、柚木」 柚木はパチパチ瞬きした。 「驚かせて悪かった」 「え……あ……ううん……おれの方こそ……」 「何か忘れ物か?」 スクールバッグの取っ手を握り締め、まだドアのところで立ち往生している柚木に柔らかく笑いかけ、察しのいい比良は黒板前から移動した。 教室後方、横列のほぼ真ん中に位置する柚木の席へ。 「う、うん、スマホ忘れちゃって」 さすがだ、比良くん。 勘がよくて、モブ中のモブみたいなおれの席まで把握してるなんて、心にゆとりがありまくりなんだろうな。 「よかった、あった~」 「何か大事な連絡でもあるのか?」 「えっ? ないないない、テスト勉強の息抜きにゲームしたかっただけ」 「彼女からメールとか」 「ははは……カノジョなんかいないし……ははははは……」 あれ、ていうか。 一年も二年も同じクラスだったけど。 おれは地味グループ、比良くんは意識高い系運動部と大体つるんでる、というより意識高い系運動部の皆様が比良くんに毎回自然と吸い寄せられてってる。 同じクラスにいても属する世界が違ってた。 だから、こんな風に比良くんと(はなし)するの、初めてかもしれない。 「それ、肉まんか?」 学校サイドが柄物を禁止しているため、比良はオフホワイトの無地セーターを着ていた。 第一ボタンが外された制服シャツ。 男子全員同じなのに比良の足だけ特別に長く見えるチャコールグレーのズボン。 新品並みに綺麗な上履き。 「今時期、買いたくなるよな」 身だしなみも清潔感があってきちんとしている比良をそばにして柚木は「う」となる。 教室暗いのに比良くん眩しい……。 毛玉があちこちついたライトグレーのセーターを着用して上下グレイッシュな、平均サイズをやや下回る体型の、極々平凡男子な柚木は。 パーフェクトな比良にこっそり憧れていた。 『ごめんね、わたし、比良くんのこと好きなんだ』 一年時、同じクラスの女子に告白し、そんな理由で玉砕し、僻むでも恨めしくなるでもなく。 男としての魅力を何もかも備えているような比良のことを尊敬していた。 ……あのビミョーな空気、経験あるからわかる。 ……さっきのコ、告白してフラれたんだ。 ……でも、おれ、誰にも言わない。 まぁ、ウチ帰ったら、ねーちゃんくらいには言っちゃおうかな。 でもやっぱり何かしらで拡散されたら怖いから大豆(飼い犬)にだけ教えよっと。 「もう俺も帰るから、柚木は家が近いんだったよな、途中まで一緒に帰ろう」 ひょんなことから憧れの比良と下校することになってドギマギしていた柚木だったが。 「柚木、あれ、何だろう」 「へっ? うわぁ、猫? まさか犬……?」 広々とした無人の校庭に何やら蠢くものを見つけて二人は思わず足を止めた。 「行ってみよう」 「えええっ、変な生き物だったらやばいよ、先生呼んでこないと……ひ、比良くん……」 点在する常夜灯の明かりが届かない隅っこにソレは落っこちていた。 「カー」 カラスだ。 やたらでっかい真っ黒なカラスが砂地にぼてっと落ちていた。 「怪我したのかな。大丈夫か?」 力なく伏せられた翼を労わるようにそっと撫でた比良、彼と同じくしゃがみ込んでいた柚木はホォ……と感心した。 比良くん、動物にも優しいんだ。 きっとお花とか木にも優しいんだろうな。 水とか土とか空気にも優しいかもしれな……。 バリバリッ 「ひっ」 柚木はぎょっとした。 ぐったり横たわっていたはずのカラスに肉まんの入ったレジ袋を攻撃され、分捕られて、縮み上がった。 ガッガッガッガッガッ 「ああ~……おれの肉まんが~……」 大事な月のおこづかいで買った肉まんを目の前でカラスに食い漁られた。 「げふッ」 「……今、このカラスげっぷしたよ、比良くん」 「そうか? 聞こえなかった」 成す術もなく棒立ちになっていた柚木、不思議そうに見下ろしている比良の前でカラスは肉まんを平らげると。 ちょんちょん、比良の革靴の爪先を嘴で突っついた。 「可愛いな」 「え、そーかな、肉まん食べられたし、でかくてゴツいし、全然かわいくな、ッ、いだだだだッ」 強めに脛を突っつかれて柚木は堪らず比良の背後に逃げ込んだ。 そしてカラスは夜を迎えつつある空へと羽ばたいた。 世にも不思議な出来事に直面し、夢でも見たみたいな気分で、宵闇と同化して見えなくなるまで二人はカラスを見送った……。 「柚木、ほら」 柚木は目をパチクリさせた。 コンビニに用があるという比良のことを駐車場の端で待っていたら、店から出てきた彼に肉まんを差し出され、こどもみたいに目を輝かせた。 「おれにくれるのっ?」 「今、持ち合わせがあんまりなくて一つしか買えなかったんだ」 「はッ……いやいや、比良くん食べなよ、おれはいーから」 比良くんに対してなんて図々しい、厚かましい、愚かなおれ……。 自己嫌悪に駆られている柚木の前で比良は肉まんを半分に割った。 ちなみにカラスを触った手はコンビニ内でちゃんと洗ってきた。 「はんぶんこ、しよう」 笑顔ではんぶんこされた肉まんを手渡される。 柚木は両手で恭しげに受け取った。 今の、CMみたいだったよ……比良くんが宣伝したらきっとバカ売れだよ、売り切れ続出だよ、肉まん……。 「ありがとう、比良くん」 比良にもらった肉まんは格別おいしく思えた。 憧れの比良との急接近にウキウキしていた柚木であったが。 平凡男子の純粋な喜びは長くは続かなかった。 むしろあっという間に打ち砕かれて……。 「どうしよ、比良くん……ごめんなさい……」

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