137 / 153
40-8
「泣いてるのかと思った」
「な、泣いてない」
「春休み中、俺はバイトしてたんだ」
「え」
「引っ越し業者の短期アシスタント」
「えぇぇえ」
「部活がない時間はほとんどバイトで費やした」
なにそれ。
大豆と遊んだり、友達んちでだらだらしたり、おれがのほほん過ごしてる間に比良くんは働いてたの?
「ぜんっぜん知らなかった……」
柚木は愕然とした。
「今回の旅行の費用、自分で調達したかったんだ」
それを聞いて、音沙汰のなかった比良に悶々とした、その一方でのほほん過ごした春休みの日々が脳裏に蘇って、途方もない自己嫌悪にドボンしそうになった。
でも、ドボンする前に。
凛と煌めく双眸がまだどこか淋しげな感情を引き摺っていることに気がついて。
胸がぎゅっっっと締めつけられて。
「柚木?」
比良は、やっと体育座りを脱したかと思えば、自分の方へ膝立ちでやってきた柚木に目を見張らせた。
「お、お邪魔します」
ぎこちない身のこなしでお膝の上へ向かい合ってお座りされると、まっかっかになっている顔をまじまじと見つめた。
「比良くん、旅行の計画立ててくれて、ありがとう」
……ああ、もう五秒過ぎた、おれの心臓は数分後には灰になる……。
「淋しくさせてごめん」
自分が決めたはずの五秒ルールをやぶって、伏し目がちながらも比良をひた向きに見つめ、柚木は。
「おれ、比良くんのことが一番好きだから……」
そう告白して不器用極まりないキスをした。
「……柚木」
「はっ……はい、おしまい!! お邪魔しました!! おれっ、端っこに帰るね!!」
慣れない行為に超絶てんぱり気味、照れて照れて照れまくって、柚木はすぐさま比良から離れようとした。
瞬時に細腰に巻き付いた比良の両腕。
二人の間に隔たりが生じるのを頑なに拒んだ。
「全然、足りないよ、柚木」
我が身へのお座りを延長させ、お膝の上に引き留めて、比良も柚木にキスした。
それはそれは比べ物にならない熱量で。
「んっ……むっ……ぅっ……っ」
離れ離れにならないよう奥手な唇にぴったり密着した唇。
時に無邪気に微熱を欲しがる比良の舌先が見え隠れした。
「ふ……っ……ぅ……ひら、くん……」
数分かけて綴られた甲斐甲斐しい口づけ。
何度か甘噛みされた唇が透明な糸を連ねて解放され、柚木は、ぼんやりした眼差しで比良を見下ろした。
「柚木と外でキスしたなんて興奮する」
比良は薄目がちに柚木をずっと見上げていた。
キャンドルライトがつくり出す陰影に彩られ、シャープな輪郭、引き締まった体の美ラインがいつにもまして際立ち、男っぽく精悍に見えた。
触れていると心地いい、厚い胸板。
ボコボコ泡の狭間に覗く割れた腹筋がセクシーで……。
……あれれ、比良くんの腹筋、こんな割れてたっけ?
「ん、ぷ」
再び愛情いっぱいのキスを唇にお見舞いされ、適温のジェットバスで柚木は逆上せそうになった。
しかも。
腰を掴んでいた両手がお尻の方へ移動して。
ヤラシイ手つきで、もみ、もみ、された。
「ッ……ちょ、比良くん、もうここまでっ……これ以上は禁止……!」
ジタバタする柚木の抵抗をものともせず、比良は、雫滴る男前フェイスに蕩けるような笑みを添えた。
「せっかくのハネムーンに禁止事項なんか設けないで、柚木……?」
ともだちにシェアしよう!