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「柚木」 二階寝室の中央を陣取るクイーンサイズのベッドで柚木は微睡んでいた。 着心地のいい新品パジャマのさらさらした肌触り、ふわふわした寝具の温もりに包まれて、目覚めるのがもったいなくて。 「……う……?」 寝室のカーテンが開かれた。 窓一面に凪いだ海が写し出される。 本日も晴天、昨日に引き続き正にお出かけ日和だった。 「うーーー……」 爽やかな景色に感嘆するどころか、柚木はぎゅっと目を瞑り、ふてぶてしげに呻いて寝返りを打った。 「お母さん、カーテン開けないでよぉ……まだ寝るんだってば……」 「まだ寝足りなかった?」 かんっぜんに寝惚けていた柚木はカッと目を見開かせた。 寝起きにうってつけな癒しボイス、鼓膜に心地いい微かな笑い声を聞いて、かつてない贅沢な目覚めを迎えることに。 「でも、すごく綺麗だよ、海」 羽布団を鼻の上まで引っ張り上げ、おっかなびっくり視線を向ければ。 「おはよう、柚木」 青々とした水平線を背にした比良が窓辺に立っていた。 ……朝イチからなんてもの見てるんだろ、おれ。 ……もはや神々しいレベルなんですけど。 「お母さんじゃなくてごめん」 布団の下で柚木のほっぺたが見る間に紅潮した。 「お……おはよう、比良くん……」 ……比良くん、もう着替えてる、早起きだなぁ。 ……いや、待てよ、すごく外明るいんだけど、今何時なんだろ? ……ちょっと待てよ? ……おれ、昨日の夜、このベッドに自分で入った記憶がないんですけど? 「比良くん、おれ、どっかで寝落ちした……?」 ベッドで愚図愚図している柚木の元へ比良はやってきた。 ブラックでシンプルなシルエットの長袖ニット、しかし素材にシルクを使用していて値段はなかなかお高く、ボトムスにはきれいめカジュアルパンツ、オトナっぽいアイテムをさらっと着こなしていた。 ベッドに浅く腰掛け、寝癖のついた柚木の頭を撫で、比良は眩げに微笑む。 「柚木、俺の膝枕で寝落ちした」 「うぐっっ」 昨夜は。 お風呂の後、冷凍ピザやフライドポテトを摘まんだりと、夕食は簡単に済ませた。 『波音がする』 『ふわぁ……ほんとだ……なんか眠くなる音だなぁ……』 すでに眠気がきていた柚木に比良はソファで膝枕してあげた。 『比良くん、その、重たくなったらすぐに言ってね』 最初は慣れないシチュエーションにどぎまぎしていた柚木だが。 波音による子守歌をBGMに、お揃いのパジャマを着た比良に優しく髪を梳かれていると、さらなる途方もない眠気に襲われて。 爆睡した。 それから本日正午間際まで、ぐーすか寝続けて、現在に至る。 「じゃあ、比良くん、おれをベッドまで運んでくれたの?」 「うん」 「うわぁ……ごめん……せっかくの旅行なのに早寝しちゃって……」 「ううん」 ギシリ 不意にベッドが軋んだ。 ふっと目の前が翳ったかと思えば、ちゅっ、比良からおでこにキスされて。 「柚木の寝顔が見放題で。新鮮で嬉しかった」 頬をうっすら赤く染めた比良にそんなことを言われて、柚木は、しぬかと思った。 「今から買い物に行ってくる」 「えっ」 「もうすぐお昼だし、今日の夕食分まで買ってくるから。明日の朝はどこか外で食べよう」 「おれも行くよ?」 「柚木はまだのんびりしてていいよ」 「でも……」 『この三日間だけは俺の視界にずっといて』 まだふやけた寝起きの表情でいる柚木はやっとこさ上半身を起こした。 「ここで俺のこと待ってて」 五月晴れの日の光が惜しみなく燦々と差し込むベッドルーム。 空と海、瑞々しいブルーの眺望が恐ろしく似合う比良はキョトンしている平凡男子を熱い眼差しで見つめた。 「柚木が待ってるって思うとテンション上がる」 そう言った後、片手で自分の目許を覆って、照れ笑いを浮かべた。 「……今の、さすがにぶっちゃけ過ぎたな」 ねぇ、比良くん、今から比良くんのこと全力で拝んでもいいですか……。

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