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第1話
蚊帳に蚊取り線香。
外は満天の星空、虫の音が聞こえてくる。
「あぁ……、帰って来たなぁ」
都会の喧騒を忘れさせてくれ、生まれ育った場所へと帰って来たなと実感する。
「おい」
明日は妹夫婦が子供たちを連れて遊びにくる。
「おいっ」
近くの小川は夜になると蛍が飛び交い、とても幻想的な風情が楽しめる。
「荻颯太 !!」
星空を眺めていたのに肩を掴まれ部屋の方へと向けられた。
そこには嫌味なほどに整った顔をした男が居る。
結城真人 。職場の同期で俺の事をフルネームで呼び、何かにつけて絡んでくるので鬱陶しい。
しかも、つれない態度をとっていても変わらず近づいてくるものだから、随分と慕われているのだと思われている。
それなのに結城が颯太の実家に来ているのかというと、長期休暇が始まる一週間前にさかのぼる。
「喜べ、荻颯太」
長期連休が近づくと、毎回、俺の元に来ては、海外に行くから一緒に連れて行ってやると誘われる。
その度に実家に帰ると断っているのだが、恋人も居ない癖にと一言多く、確かにその通りなので余計なお世話としか返せずにいた。
だが、断ったからといって諦める相手ではない。誘う場所を変え、休みに入るまで誘い続けてくるから迷惑でしかない。
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