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第2話

 実家まで夜行バスに乗り、さらに路線バスで二十分ほど揺られる。しかもバス停から十分ほど歩かなければならない。  近くに温泉地があるので休暇に温泉を楽しもうという客もいるだろう。その中に結城の姿を見つけた時は驚いた。 「奇遇だな」 「え、なんで」 「旅行だ」  それ以外に何があるといわんばかりの顔をされた。  席は離れていたので特に絡まれる事は無かったが、バスの終点地である駅に着いてから何故か後をついてくる。  しかも温泉地へ向かう訳でもなく、同じところでバスを降りた。  これは間違いなく家まで着いていく気だ。冗談じゃないぞと結城の方へと振り返り、 「温泉地は二つ目の停留場だ」  そちらへ行くようにバス停を指さす。 「まぁ、気にするな」  何が気にするな、だ。  結局は家までついて来て、泊める気はないとタクシーを呼ぼうとしていた所に母が外へと出てきた。 「お帰り、颯太。あら、そちらの方は?」 「はじめまして。結城と申します」  爽やかな笑顔と共に頭を下げる。 「あらあら、お友達なの。素敵な方ね」  のんびりとした性格で、良く笑う母だ。地元の友達には優しくて羨ましいと良く言われる。  いつもはフルネームで呼ぶ癖に、親の前では「颯太君」と呼ぶ。  しかも母はすっかり結城の事を気に入ってしまったようだ。 「何もない所だけどゆっくりしていってね」  連絡もなく連れてきた、というか着いてきた相手に対して母は迷惑だという顔もせずに受け入れる。  なんて人が良すぎるんだと、がっくりと肩を落とした。 「はい、お世話になります」  そういう結城も図々しい。母と一緒に家の中へと入ってしまう。  しかも父にはお土産ですと日本酒を手渡している。  大の酒好きだという事を結城に話した事は無い。いつ、リサーチしたのだろうか。  早速と日本酒をご機嫌で飲む父に、結城は付き合いながら話をし始める。  結城はビジネススキルの一つ、ヒューマンスキルが高い。初めてでも緊張せず円滑に会話を勧める。  そこは見習いたい所だが、颯太に対しては一歩的で強引な所がある。  きちんと話を聞くこともできるのに、それをしてくれないのが余計にムカつく訳だ。 「颯太、運んで頂戴」  お刺身にてんぷら。  付皿と天つゆ、太鼓、生姜、ワサビのおろし。  次々にテーブルの上にのせていく。 「手伝う」  そう席を立とうとした所を、手で静止する。 「結城は親父の相手」  ご機嫌な父の姿を見て、余程、結城との飲みが楽しいのだろう。  台所へと戻ると母が楽しそうに唇を綻ばす。 「お父さん楽しそうね」 「本当。俺と飲むより楽しいんじゃねぇの?」  颯太は酒が強い方ではない。晩酌に付き合っても直ぐにダウンしてしまうので、張り合いがないのだろう。 「颯太、後はこれを運んで。一緒に飲んでいらっしゃいな」  と自慢のぬか漬けを手渡された。 「おっ」  キュウリを一切れ摘まんで、口の中へと放り込む。ぽりぽりと良い音がし、丁度良い漬かり具合だ。 「美味いな」 「こら、素手で食べるんじゃないの」  怒られつつ、その一言に母は嬉しそうな表情を浮かべていた。

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