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第3話

 出された食事は結城に好評だった。  どうせお世辞だろうと思っていたが、結構な量を食べていた気がする。  酒を飲んだ父はすぐに寝てしまい、結城は後で風呂に入るというので先に入らせてもらう。  その間、母と話しが盛り上がっていたようで、風呂を出た後に居間に向かうと楽しそうな笑い声が聞こえてきた。  颯太は風呂から上がった事を告げると、もう寝るわと自室へと向かった。  縁側に座り涼をとっていると、風呂から出た後らしく、結城が中へと入ってくる。  それに気が付いたが無反応でいた。すると痺れを切らしたようで、結城に肩を掴まれてそちらへと向かされた訳だ。 「折角、現実逃避していたのに」 「なんとっ」  どういうつもりだと表情が言っている。  だがそれには答えずに、 「浴衣」  と別の話題を振る。  それがやたらと似合っていて、言うんじゃなかったと後悔するが、結城は嬉しそうだ。 「お母さんが貸してくださったんだ」  似合うだろうと言いたいのだろうか。自信過剰だなと鼻であしらう。  相手はそんな颯太を気にすることなく、涼しいなと隣へ座った。 「なぁ、お前さ、なんでついてきたんだよ」 「俺の誘いを断って、お前が戻る場所が気になった」  くだらない理由だ。  どうせ、誘いを断ってまで来た所が、こんな田舎の一軒家かと思っている事だろう。 「は、馬鹿馬鹿しい。今日は仕方がないから泊めるけど、明日は帰れよな」 「断る」  なんて自分勝手なんだろう。 「はぁ? ふざけんなよ」  衿を掴もうと手を伸ばした所を掴まれ、布団の方へと引っ張られる。  何をするつもりだと、血の気が引いた。 「離せっ」  手を強く引こうとした所で手が放されて、まんまと尻もちをつく事となった。 「てめぇっ」    頭に血が上り、再び衿を掴もうと手を伸ばしたところに、 「なぁ、これ、蚊帳だよな。そしてこれが蚊取り線香」  と言われて、一瞬、躊躇う。 「そうだけどっ」  何を考えているのだろうか結城は。気持ちが読めず、複雑な思いで相手を見れば、 「日本らしい夏の夜だな。しかも外を眺めながら寝られるし、涼しい」  どうやら物珍しくてワクワクとしている、ようにみえた。  タワーマンションに住んでいるという話しを受け付けのお嬢さんたちから聞いたことがある。そこからなら星空よりも綺麗な夜景が楽しめるだろうに。 「それに虫の音がきれいだ」 「そうか」 「とても心が和む、良い所だ……」  と布団に横になる。  褒められた事が以外で、少しだけ嬉しく思った。 「結城、ありがとう」  素直にそう口に出てしまい、恥ずかしくなって顔を背ければ、結城からは何も言ってこない。  からかわれるかと思ったが、彼の方を見れば既に寝息を立てていた。 「なんだよ」  聞かれなかったことにホッと胸をなでおろす。  いい男は寝ている姿までさまになるのかと、颯太も隣の布団に横になった。

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