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第4話

 昨日の疲れもあったか、ぐっすりと眠っていたようだ。 「あ……、良く寝た」  あくびをし、身体を伸ばす。隣を見れば、結城の姿はなく布団が畳まれて置かれていた。 「あいつ、何処へ行ったんだ」  帰ってくれればありがたい事だが、廊下に出ると庭の方から声がする。  サンダルを履き出ていくと、畑で野菜を取る父と結城の姿がある。 「おはよう、二人とも」 「おはよう。お父さんが収穫をさせてくれるというのでな。楽しいな」  麦わら帽子に手拭いを首にかけ、真っ赤なトマトを掲げながら笑顔を向ける。取り繕う事のない、その無邪気な表情は見た事がない。 「結城君は良い青年だ。お前と違って」  父に言われて苦笑いを浮かべる。外面が良いだけだと言い返してやりたい。 「言ってろ」 「井戸の水でトマトときゅうりを冷やしている。母さんの所に持って行ってくれ」 「はいよ」  縁側に置かれたざるを手に冷えた野菜をのせて台所へと向かう。  母はコンロの前で何かを作っているようだ。覗き込むと湯の中にトウモロコシが入っていた。 「あ、トウモロコシ」 「もぎたて。結城君に食べさせてあげるのよ」  やたらと楽しそうで、自分の息子よりも結城かよと少し嫉んでしまう。  ざるにあげたトウモロコシから白い湯気が立ち上る。 「二人を呼んで頂戴。朝食にしましょう」  朝食の準備は既に終わっていたらしく、皿に盛ったおかずを渡される。  居間に向かうと、丁度、二人が戻ってきた。 「朝飯っ」  と言うと二人は庭から直接中へあがりこんだ。 「はい、ご飯とお味噌汁。これは結城君がもぎってくれたトウモロコシよ」  皿に山盛りのトウモロコシが真中に置かれる。  食事を済ませてトウモロコシにかじりつく。 「甘くてしゃきしゃきとして美味い」 「そうだろう。俺も食べよう」  と、トウモロコシに手を伸ばした所に、 「じぃじ、ばぁば、颯太、来たぞっ」  元気よく声を掛けて庭から甥の(たける)が家へと上がり込んだ。小学校四年生で、生意気盛りで元気のよい子だ。 「おう、いらっしゃい」  颯太の隣に知らない人を見つけ、興味津々と覗き込む。 「誰?」 「こら、武」  失礼だろうと額を指で小突く。 「俺は颯太君の友達の真人だ」 「そっか。よろしくな、真人」 「呼び捨てじゃなくて、さん付けしろ」 「わー、トウモロコシ」  話しは聞かないし自分勝手。誰に似たんだと頭を抱える。  そんな武を結城は特に怒ることなくトウモロコシをかじっている。

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