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第23話 午後の時間
いちごぐみの担任は片岡三咲先生といって、流し目がちょっと色っぽいカワイイ先生だった。
そんな先生と彌先生が並ぶと、お似合いな感じがする。
なんだか今にも恋愛ドラマが始まりそうな雰囲気だ。
とはいっても、二人は先生としてクラスを回しながら子どもたちのトラブル解決にも奔走していた。
決して男女の関係が発展する余地はなさそうだ。
二人とも子どもを見る目が本当に優しい。
僕も部屋に居る限り、喧嘩なんかに仲裁に入るけど上手く解決へ持っていけない。
すると、僕の事をいつも見てくれているみたいで彌先生が助け船を出してくれる。
毎回こんなわけにもいかない。
「よーしっ、頑張るぞ‼」
僕が気合いを入れ直して小さく声を上げると、まだ近くにいた彌先生に笑われてしまった。
…言うんじゃなかった。
恥ずかしくて僕は彌先生の視界から視線を逸らしたんだけど、赤くなった顔はなかなか戻らなかった。
それからバタバタとしている間に午前が終わって、午後のお昼寝の時間がやって来た。
部屋に布団を敷いて、子どもたちを寝させていく。
疲れていたのか、結構早くにみんな眠ったから良かった。
僕が寝させ終わると、ひと足先に子どもを寝させた彌先生と三咲先生がお帳面に今日のそれぞれの子どもたちの様子を記入していた。
いちごぐみの人数が少な目なのと、二人の書くのが早い為、書き終わっていなかったお帳面はどんどん減っていく。
僕がお帳面を書くわけにもいかないので、自分の実習日誌を書かせて貰っていた。
そして、とうとう書き終えたと同時に「うーん」と、彌先生が伸びをした。
長身を屈めて子どもの机で書くのは相当肩が凝ったに違いない。
ご苦労様です。
「ッ!」
そんな先生と僕の目が合った。
「大夢先生、これからちょっといいかな?」
「え?あ、はい」
彌先生が立ち上がったので、僕も立った。
すると、ツカツカ歩み寄ってきた先生に手首を掴まれる。
「良かった。先生に手伝って貰いたい事があるんだよ」
そう言うと、僕を連れて部屋を出ていく。
廊下を引かれて行った先は、遊戯室横にある部屋だった。
「?」
どこだろうかと思う間もなく引摺り込まれる。
部屋の中は、画用紙や折り紙といった画材が沢山揃っていた。
「ここにある材料使って、壁面作って欲しいんだ」
彌先生が一冊の本を取り出す。
「コレを作りたいんだよね~」
そう言いながら先生が開いた保育雑誌には壁面のお手本が載っている。
かわいらしい雷様が雲の上で太鼓を叩いている。
「俺も手伝うから、一緒に作るの頼めるかな?」
そんな申し訳なさそうな顔をされなくても、勿論手伝うに決まってる。
二人で作業するのなら、色んな相談がしやすいと思うんだ。
絶好のチャンスだと、僕は大きく頷いた。
「はいっ、勿論手伝います!頑張ります‼」
僕の返事にニッコリ笑ってお礼を言った先生は、さっそく近くにあった画用紙を必要な色だけ取ると「こっち」と僕を手招きする。
「えっ⁉」
誘われて歩いた奥にはひっそりと扉があった。
製作に使うためか集められた廃材が雑多に置かれた先に。
「ここ。みんな自分のクラスや職員室で作業するから誰も使ってないんだよね。あと、静かすぎて怖いらしいよ」
扉の向こうには畳の部屋があった。
小さな窓がひとつに、中央にテーブルと糊や鋏がセットしてある。
「だから今は実質、俺専用なんだよね。散らかしても大丈夫だから、どんどん作ろう‼」
ドンッと彌先生が手にしていた画用紙をテーブルに置いて、ニッと不敵に笑った。
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