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第25話 見とれるのは程々に
僕が休憩室へ向かうよりも早く、調理室から声が掛けられた。
「先生、休憩でしょ?」
そこに居たのは、調理担当の真中早紀先生だった。
調理用の白衣を着たまま立っていた。
そのスラリとしたスタイルのよさと、サッパリした口調が好感を持たせる。
顔も美人だ。
ここの保育所、本当に美男美女が多い気がするけど。
偶然かなぁ…?
僕がしょうもない事を考えていると、早紀先生が冷蔵庫を開ける。
「これ、先生の分ね」
手渡されたのはアイスシュー。
冷たくて美味しそうだ。
「あ、あのっ。僕、彌先生と一緒に向こうで製作しながらお茶したいんですけど…」
そこまで言うと早紀先生は「あぁ、そうなの。ご苦労様~」と、もうひとつ彌先生分にアイスシューを出してくれた。
「ほら、ついでに飲み物も準備してあげるから。何がいいの⁉」
「あ、ありがとうございます。っと、僕はオレンジジュースで…」
彌先生は何が好きなんだろうか?
なんて僕が気にする必要もなくて、早紀先生はよく知っていた。
「ほら。もって行きな」
それだけ言って、お盆を手渡すと踵を返して自分の仕事へと戻ってしまった。
「ありがとう、ございました…」
僕はお礼を言うと、調理室を後にした。
「先生、お待たせしてすみません」
「おかえり」
彌先生は、いつもの穏やかな笑顔で僕を出迎えてくれた。
その整った顔に最高の笑顔を浮かべて出迎えられると、自然に頬が緩む。
恥ずかしい。
少し視線を外してから、もう一度見てみる。
「ん、何?」
「い、いえっ‼何でもないです」
慌てて否定したけど、やっぱり彌先生から視線が外せないでいた。
むしろ逆に視線を外せなくなっていた。
自然と引き込まれる錯覚に陥る。
落ち着いていて、仕草もつい目を奪われてしまう。
僕を迎え入れた「おかえり」のことばひとつをとっても特別に響いてしまう。
なんだか違う気がするんだ。
憧れる。
憧れからくる贔屓目だけじゃないと思うんだよね。
「あ。これ、どうぞ…」
彌先生が再び眉を下げて笑うので、そこで気がついた。
いつまでも、こうしてはいられない。
そう思ってコーヒーの入ったグラスをひとつ、お盆から持ち上げた。
グラスの中の氷が半分溶けている。
それだけ今日は暑かったみたいだ。
決して僕の緊張からくる熱で溶けたわけじゃないと思う。
彌先生がテーブルの上に広げていた物を端に退けた。
それを見て、僕はグラスを彌先生に渡そうとした。
「あっ…‼」
僕の手から彌先生の手に渡る前に、先生のグラスはテーブルへと落ちてしまった。
コーヒーは全滅だった。
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