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第30話

当たり障りのない世間話をしながら、自転車を並走させて家に向かう。 頬に当たる乾いた風が気持ちよくて、髪をかき上げながら隣を見ると、汗で濡れた襟足の髪が妙に色っぽく映る。 先ほどの熱がまた再熱しそうで、わざとそっぽを向いて走らせていると、いつの間にか家についてしまった。 少し前まで何を話せばいいのか必死で探していたのに、もう離れなくちゃいけないと思うと、名残惜しさが残る。 次にいつ会えるか分からないさよならは、やっぱり寂しい。 「じゃあ、また。」 努めて明るくそう言って、少し離れた自分の家に向かって自転車を向けると…… 砂羽が不思議そうに俺を見る。 「寄ってかないの?」 「え?」 砂羽に言われて立ち止まると、俺を見つめる視線に焦がされそうになる。 太陽の熱よりも眩しい砂羽の瞳に促され、俺は目を細めて自転車を降りた。 「お……お邪魔します。」 「誰もいないから緊張することないのに。」 砂羽の背中に続いて中に入ると、しんと静まり返っている。 いつも母親がいる騒がしい我が家とは勝手が違い妙に緊張するのは、この前のことが頭にこびりついて離れないから。 「シャワー浴びちゃうから、俺の部屋で適当に寛いでて。」 「お、おう……。」 砂羽が浴室に消えていくのを見て、俺はリビングをチラ見して赤くなりながらも、階段を静かに上がる。 部屋の扉をそっと開けると、締め切ったそこはむっとするほど暑かったが、砂羽の匂いが籠っていて心地よかった。 この前は焦りすぎて部屋を見る余裕なんてとてもなかったけれど、俺の知る子供の頃に比べたら随分大人っぽくなっている。 知らない間に埋められた時間を想像して、嬉しさと寂しさが同居する。 俺の知らない間にこの部屋に何人の女が訪れたのか、それを想像するだけで息苦しくなり、寂しさが勝った。 好きな人の部屋で適当に寛ぐなんてことは出来なくて、きょろきょろと忙しなく部屋の中を見渡す。 本棚にはバスケや筋トレの本がずらりと並び、そのひとつを手に取ってみたが、興味が引かれる内容でもない。 今度は砂羽の机に目を向けると、女子にでも貰ったのか、砂羽の趣向とは異なる雑貨や時計やアクセサリーなんかを見つけて、俺の心をさらに複雑なものにさせる。 ――ここにいるのは、ちょっときついかも……。 そんな中、俺のよりも少し大きめベッドが目に入る。 砂羽に抱かれて朝を迎えたあの日、俺は間違いなく幸せだった。 砂羽の胸板や俺の頭に下敷きにされた逞しい二の腕を思い出して、なんだか気恥ずかしい。 ふかふかのベッドに腰を掛けると、砂羽の枕が指先に当たった。 それを手繰り寄せて腕に抱えると、なんだか砂羽を抱きしめているようで安心する。 ――砂羽の匂いがする。 枕を抱えたままごろんと横になると、扉ががちゃりと開かれた。 ハーパンだけ穿いた格好の砂羽が、タオルで髪を拭いながら入り口に立ってこちらを見下ろしている。 しばらく、お互い見つめ合って 「……何してんの?」 真顔でそう問われて、俺は自分が抱えていた枕を背中に隠す。 「さ、砂羽!?早かった、な……。」 そう慌てて取り繕いながら、がばっと身体を起こすと…… 砂羽が呆れた顔でこちらに近づいてきた。 俺の方に手を伸ばす砂羽にびくりと肩を震わせると、砂羽の手は俺の横を通りすぎ、壁にかけられた冷房のリモコンをONにした。 そのついでに俺が背中に隠した枕を手に取ると、俺の顔を首を傾けて覗き込む。 「人の枕に抱き付いて……。ヒナって変態?」 そう茶化す砂羽の瞳に見つめられて、俺は視線を泳がすしかない。 「ちっが……う、し!」 そう否定しながら砂羽を見上げると、髪から落ちる滴が頬に落ちる。 首筋に濡れた髪が絡んでいて、見ているだけで頬が紅潮していくのが分かる。 心臓が壊れそうなほど鳴っていて、火照った顔を隠すように俯いた。 「ちょっと眠くなったから……。」 そんな見え見えの嘘を並べながら、砂羽のことは見ないようにすっとベッドから腰を上げる。 砂羽の横を通りすぎてクッションに座ろうとすると、砂羽に腕を掴まれた。 そのままぐいっと引き寄せられ目の前に立たされると、俺の腕を砂羽の指が滑る様に撫でていく。 ぶわっと背筋が粟立ち、ぎゅっと強く目を瞑る。 次に何をされるか期待しながらそっと目を開けると、砂羽が俺の腕からあっさり手を離した。 ――もう、終わり……? もっと触って欲しいと思いながら砂羽を見下ろすと、ふわりと嬉しそうに微笑む顔を見て、さらに顔が紅潮する。 「傷、随分薄くなったな?」 「え?」 「よかった。」 そう独り言のように漏らし、がしがしと髪をタオルで乾かしはじめた。 何を言うのかと思ったら、腕の傷を気にしていたんだと知って嬉しくなる。 「そんな痛くなかったし、平気なのに……。」 「いやいや、青痣になってたじゃん。」 「もう痛くないし、別にいいよ。」 「まだ眠い?」 「え?」 手首を掴まれて砂羽の隣に座らせられると、砂羽が俺の前髪をそっと払う。 「する?」 静かに俺を見つめながらそれだけ問われて、俺も静かに頷く。 「……する。」 砂羽が俺の言葉に軽く笑って、うなじに手を添えて唇を合わせた。 風呂上がりで少し濡れた唇はこの前よりも柔らかくて、ふんわりと甘い。 もっとしたくて砂羽の背中をぎゅうと包み込むと、砂羽の指が俺のシャツの中に潜り込む。 歯列を割って差し込まれた舌が歯裏や上顎を撫でる度に、腰が痺れたように奥が疼く。 平らな胸を執拗に揉まれ、乳首を指で弾かれ、音をたてて首筋にキスをおとされる。 鎖骨に沿うように舐められて、肌が粟立つ。 その痺れるような感覚が気持ちよくて、目を細めながら砂羽にねだった。 「痕、つけて……。」 「え?」 驚いたように顔を上げて、至近距離で見つめられると…… 自分の放った言葉が今更恥ずかしくて仕方ない。 俯いた顎を指でとられ、鼻が触れそうな距離で顔を覗き込まれて泣きそうになった。 「す、吸われるの好きだから……。」 俺の消え入りそうな声を静かに待っていた砂羽が、無言で胸元に赤い痕をつけていく。 本当は愛された証が欲しかった。 腕の傷は薄まってしまい、朝起きたときにあれは夢だったのではないかと思う自分がいる。 砂羽とセックスしたんだって証を身体に残したくてねだった言葉は、砂羽にどう届いたのかは分からないが…… 痛いくらいにきつく吸われて、その痛みを柔らかい舌が溶かしていく。 乳首を掠めるように唇があたり、思わず声が上擦ると…… 尻を揉み込むように引かれて足を絡められた。 少し汗ばんだお互いの脚が敏感なとこに触れる度に震える腰を、砂羽が抱えるように抱き込む。 お互いの熱が布越しに伝わるのがじれったくて、でも唇を離すのも惜しいから、無理やり足で蹴るように互いの服を脱がしていく。 既に硬くなった砂羽の性器を握ると、喉の奥で砂羽が唸った。 自分の性器も合わせて擦りあげていくと、後ろに回った砂羽の指が双丘の狭間を丸く撫でる。 指がつぷりとナカに侵入し、勘のいい砂羽がすぐにいいとこを探り当てると、指腹で何度も責め立てていく。 「あ、やっ!んんっ!!」 俺が腰を浮かせた隙に指を増やされ、ナカを掻き混ぜる動きに合わせて淫らな音が響く。 ローションがないから動きに滑らかさはなかったが、その代わりに砂羽の指の動きをよく感じる。 ねちねちといやらしい音をたてて、ナカを砂羽に弄られていることは眩暈がするほど気持ちいい。 真昼間から何をしているんだと頭の片隅で思いながらも、抉るように掻き混ぜられて、息が短く切れていく。 「砂……羽っ!あぁ、んっ!」 「ヒナ、気持ちい?」 さっきの試合よりも額に汗を滲ませた砂羽にそう聞かれて、何度も頷きながらキスをねだる。 舌先をきつく吸われ、ぴりりとした痛みと共に、目の前がちかちかする。 「で、出そう!イク!イきそ……イ、く!」 イかせてほしいと腰を上下に揺らせると、砂羽が俺の後孔からあっさり指を抜いてしまう。 「え!や……さ、砂羽!?」 もう少しでイきそうだったのにと思いながら、濡れた瞳で砂羽を見つめると…… 瞼に啄むようにキスをされた。 「んー……もう少し、我慢してみたら?」 そう優しい声で宥められて、零れた涙を舌で絡めとられる。 尻にまわされた腕は俺の腰を優しく抱いているだけで、これ以上のことをする気はなさそうだ。 やわやわと尻を揉まれ、後孔の狭間を行き来する指に焦らされる。 あと少しの刺激でイけそうなのに、ぎりぎりのところで焦らされて、もう理性なんてどこかに吹っ飛んでしまった。 自分の先端を砂羽のモノを擦り付けて、愛液で濡れた指を自分の後孔に押し込む。 砂羽の前で自慰なんて、恥ずかしくていやなのにそれ以上に限界だった。 1週間以上も我慢しているせいか、いつもよりも自制がきかない。 砂羽に浅ましい様子をじっと見つめられながら、すぐに弾けた。 「んん!や……だ!あ、あぁん!!」 びゅっと勢いよく飛び出した精液で、自分の指も砂羽の性器もいやらしく濡れている。 自分ので汚れた砂羽のモノがものすごく卑猥に映り、ごくりと喉が鳴る。 砂羽のモノが苦しそうに張りつめているのを見つめながら、股間に頭を埋めた。 「え、ヒナ?」 慌てたような砂羽の声は聞こえないふりをして、先端を舌でぺろりと舐める。 びくっと震える根元をぎゅっと握り込み、裏筋に舌先を当てて下から上に丁寧に舐め上げながら、砂羽を見上げる。 「さっきのお返し。」 俺の言葉に砂羽が目を細めて苦笑いをしながら、諦めたように俺の髪をさらりと撫でる。 余裕な表情にムカついて、丹念に舐め上げてから先端を口に含む。 先ほどよりも硬度を増したモノを喉の奥まで銜えこんで吸い上げると、砂羽が苦しそうに短い息を吐く。 その息遣いに合わせて口を窄め、ピッチを上げた。 息遣いが徐々に荒くなり、口の中に独特の苦い味が広がる。 ピーマンとかの苦みは苦手なのに、砂羽の味はどこか甘くて、麻薬のように脳を痺れさせる。 「イひひゃい?」 口に銜えこんだままそう尋ねると、砂羽が俺の髪を軽く引っ張った。 無理やり上を向かされると、砂羽と視線が絡む。 眉をひそめ、口元を歪ませた表情に、俺の心臓がどくんどくんと大きく波立のが分かる。 ――なんか、俺のほうがイきそう……。 砂羽がくっと口元をきつく結んだ瞬間、口の中のモノが大きく弾けた。 油断したせいで思い切り咳き込むと、砂羽が息を乱したまま俺のことを呆れた顔で見下ろす。 「だ、から……離せって。」 そう文句を零しながらも、俺の口元に飛び散ったそれを親指で優しく拭ってくれる。 「さっきのお返しだって、言ったろ?」 俺が濡れた唇を舐めながらそう言うと、砂羽が俺のモノに手を伸ばす。 「ヒナのもきつそうだけど?」 「……うっさい。」 目を合わせて笑いながら、最初と同じように優しいキスを交えながら、今度はゆっくりと2人で上り詰めていった。

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