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第1話
「また名波 先輩が問題起こしたらしいぞ!」
「またか~。今度は誰を病院送りにしたわけ?」
「いやいやいや、さっき聞いた話だと隣の女子高の子を孕ませたって噂だぜ?」
「名波先輩、格好良いしねぇ~」
昼休みも半ばを過ぎた頃合い。
教室に飛び込んできたクラスメイト加藤君の言葉で、一気に騒然とする室内。
お昼くらいゆっくり落ち着いて食べたいのに。なんでこの学校はいつもこうなのかな。
「名波先輩ってホント”歩く騒動製造機”だよな。ある意味尊敬する」
「僕は別にどうでもいいよ。どうせ一生関わる事ない人だし」
「いつも思うけど、葵 って可愛い顔してそういうとこ結構冷めてるよな」
「一言余計」
サンドイッチを食べながら呟く陸を睨み、箸で刺したミートボールを口に運んでモゴモゴと反論する。
けれど、口いっぱいにミートボールが入っているせいか、怒っていてもそう聞こえないのが腹立たしい。
まぁ食べながら言った自分が悪いんだけど。
県立富士岡高等学校。
可もなく不可もない。極々平均的な男子校だ。
その中でもずば抜けて目立っているのが、僕達の1つ上の学年、二年に在籍している名波耀平 先輩。
騒動や噂には事欠かない人物。でも、見た目は物凄く格好良い。
レイヤーが入りまくりの金髪ミディアムショートをワックスで散らして軽く後ろに流し、両耳にはピアスがたくさん。常にシルバーリングやシルバーネックレスをしていて、黒の学ランをセンス良く着崩している。
背は高く、噂によれば180前半くらいあるらしい。
二重で切れ長の目は、僕に言わせれば鋭くて怖いけど、周りに言わせれば格好良いのだとか。
見た限りの性格は、なんていうか…、凄く明るい。
真顔になれば怖そうなのに、とにかくいつも楽しそうにしているから、不良さんではあっても明るい印象しかない。
真面目で地味な一般生徒である僕とは、一生関わり合う事がない相手だ。
…というより、関わりたくない。
クラスメイト達の噂話をスルーしてお弁当を食べ終わり、「いただきました」と手を合わせて片付け始めた。
いつも僕とお昼を食べている此花陸 は、僕の前の席だ。
だからお昼になると椅子ごと後ろを向いてきて、僕の机で一緒にご飯を食べている。
そんな陸が、お弁当箱を片付ける僕を正面からじーっと凝視している事に気が付いて、ちょっと驚いた。
「な、なに?僕の顔に何か付いてる?」
「…いや…、葵ってホントに周りに興味ないよなーって」
「へ?そんな事ないと思うけど」
「いやいやいや、そんな事あるだろ。あの名波先輩だぜ?みんなの話、気になんない?」
「んー…、でも名波先輩とは全然関わりないし。関係ない人の話聞いても、僕よくわかんないし」
「…そういうもんですか」
「そういうもんなんです」
そう答えたら、何故か陸は楽しそうに笑った。
此花陸。高校に入学してから仲良くなった友達。
入学式の時に言葉を交わしてからというもの、気が付けば常に一緒に行動している。
9月になった今では、僕の一番の友達と言っても過言ではない。
身長が165の僕に対して、陸は175。
普通の黒髪ショートの僕に対して、陸はフワフワ茶髪ショート。
僅かに吊り上がっている猫目だと言われる僕の目。陸は二重だけど僅かにタレ目。
勉強が好きで運動が苦手な僕、運動大好きで勉強が嫌いな陸。
面白いくらいに正反対な僕達。
この前、加藤君には、
「可愛い野々宮 姫と格好良い此花王子。君達が実は付き合っているという噂が出ているのですが、その真相は?!」
なんて、(マイクに見立てた)ボールペンを向けられた。
ちなみに加藤君は新聞部員。
彼に言わせれば、僕達は理想のカップルなのだそうだ。
昨今多くなってきた同性愛者(もしかしたら人数が増えたというより、簡単にカミングアウト出来る時代になったという事かもしれないけど…)の例に漏れず、うちの学校でもそういう人達がチラホラと見受けられる。
他人の事はどうでもいいのか、それとも対岸の火事は面白いという事なのか、意外にも校内では彼らの存在が普通に認められている。
…というより、顔と中身が良ければ性別関係なくモテるという事なのだろう。
実際に付き合っている人達は少ないものの、憧れを含めて同性に片想いをしている人はかなりの人数になっている。
そして、その憧れの対象になっている中でもトップを独走しているのが、さっき噂にのぼっていた名波先輩だ。
ちなみに、陸も人気がある。
周りを見ていると、そういう人気がある人と仲良くしている人は、妬みなどで嫌がらせを受けていたりする。
それを聞いた時、陸と仲良くしている僕も嫌がらせを受けるかもしれない…なんてちょっと怖かった。
でも何故か、9月の半ばになった今でも嫌がらせの類は受けていない。
なんでだろう。
不思議に思うけれど、嫌がらせを受けないならそれでいい。最近では気にしないようにしている。
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