2 / 9
第2話 淫靡な夜
そう僕はあの時、いろいろ考えたのに――
安田課長と熱い夜を過ごすべく、何かやらかしてやろうと策を練ったのにも関わらず、実際は出向いた企業側の不正を明るみにしてしまった。
「ウチの会社の部長と、連携を組んでいたなんて……。非常に嘆かわしい話だ」
キャバクラの割引券やピンサロの割引券等を手渡して、接待の日のアリバイを見事に裏工作していたらしい。それが分かったから、向こうさんも大慌て――話が上層部にまで行くこととなって、大ごとになった関係で夜になってしまった。
「今夜は泊まりだが大丈夫か。下田?」
「はい。明日が休みでよかったですよね」
んもぅ、全力で大喜びしておりますが!
「全然よくないんだぞ、まったく。ホテルがとれないんだ。連休の中日だから、連泊してる客で埋め尽くされていてな」
「はあ……?」
「だからそこに泊まるぞ。その前に買い物して行こうか」
真顔で言って指を差した先は、ラブホテル街だった。
いっ、いきなりラブホって安田課長、アナタって人は、もしかして僕のこと――
「何を戦慄いているんだ。お前みたいな坊ちゃん、ラブホなんて泊まったことがないんだろう?」
「へっ!? いやぁ、まあ……」
「やっぱりな。覚えておけ、出張先で泊まるところがなきゃ、こういうのもアリなんだから。寝泊りできればいいんだし」
「……寝泊りだけ、ですか?」
疑問に思っていたことを口にしてみる。結構ドキドキ。出張はペアで行ってるんだ。故に誰かとラブホに泊まっているワケで。
「男同士で泊まっているんだから、何かあるワケがないだろう」
眉根をぎゅっと寄せ、忌々しそうな表情を浮かべて、ひとりでコンビニに向かって歩いて行く寂しげな後姿。
「僕らの世界では男同士だからこそ、何かがあるんですけどねー……」
コソッとごちてから、その背中を走って追いかけた。
火のないところに煙を立てるべく、燃焼しそうなモノを次々と投入し、炎上させようと試みている作者が、結構必死になっているのを、安田課長はまだ知らなかった。
ともだちにシェアしよう!