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目覚め
ぱちり、と。
ダークグリーンの瞳が開かれたのを見たオレは内心、それこそ気でも狂ったかと言う程、歓喜に絶叫していた。
狂喜乱舞なんて言葉があるけれど、踊り狂うだけじゃ足りない。この声を、この喉を潰す程に。肺を圧縮する程に。音にして吐き出さないと、この喜びを表現出来ない。
だけどオレはそんな、喜びに荒れ狂う内心を必死で抑えつけて。
ただ、穏やかに微笑んだ。
それは此処が個室といっても病室であるという、TPOを考えてのものでもあったし、今まさに目を覚ましたばかりの彼を考えてのことでもあった。
長らく意識を失っていて、起きた途端に絶叫する男がいたら、それはトラウマものだろうから。
彼の意識が戻ったのは何より嬉しいし、内心は相変わらず喜びに狂っているけれど、彼を怯えさせたいワケじゃない。その意思だけでオレは、自分の荒れ狂う歓喜を完璧に抑え込む。
「……ごめんなさい。あなたは、誰ですか?」
神様、と。
その時オレは、信じてもいない存在に、感謝した。
彼が目を覚ました。それだけでも喜ばしいことなのに、その彼は記憶を失っていたのだから。
オレはこんなに幸せでいいんだろうか。
オレと彼以外誰もいない病室で。
唯一付き添っているオレを、ダークグリーンの瞳が不安そうに見つめる。
だからオレは、彼に安心してほしくて、やわらかく微笑んだ。
「オレはアンタの恋人っすよ」
そして、彼に1つ、大きな嘘を告げた。
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