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エピローグ・ある日の朝
あの日、嘘をついた。
真湖 が記憶を失っていると知った時、ほっとして。
華宮 に男として生まれただけで、幸せになれなかった真湖に、幸せを渡したい。オレが幸せにしたいと思った。
オレが咄嗟に言った「恋人だよ」という言葉で、かえって真湖を責めてしまったのかもしれないけど。
真湖の笑顔を見ながら思う。幸せだって。真湖も同じだったらいいなと願いながら、真湖のための朝ごはんをテーブルに並べる。
食事は交代制。真湖が作ってくれたご飯が並んでる時。真湖のためのご飯を作ってる時。
おはよう。おやすみを重ねていく毎日に、特別なことなんてなにもなくても、凄く幸せだと思う。
なんでもないように見えて、この毎日が、ぐらぐらした奇跡なんだって分かってはいるけど。
分かってるからオレは、あの日ついた嘘にほころびが出ないように尽力する。
それはやっぱり辛いけど、幸せの代償、嘘で幸せを手にした罰だっていうなら、甘んじて受け入れたい。
「真湖~。朝っすよ。おはよ」
※
あの日、嘘をついた。
海 の姿を見た時、嬉しくて。だけど申し訳なくて。
オレの自殺未遂に関わったことで海の人生を変えてしまったなら、解放しないと。そう思いながら、もし海が許してくれるなら海の近くで人生をやり直したくて。
オレが咄嗟に言った「あなたは誰ですか」という問いかけは、身勝手で残酷だったかもしれないけど。
笑ってくれる海を見て思う。これが幸せだっていうんだ。海も同じ気持ちだったらいいなって。
まだ完全に目が覚めてなくて、ぼんやりした思考に、朝ごはんのいい匂いがする。昏睡から覚める前は、ありえなかった。
食事は交代制。誰かのためにご飯を作れる。誰かがオレのためにご飯を作ってくれてる。その誰かが、海だってこと。
その海と、おはようやおやすみを重ねていく毎日。凄く幸せだって思う。
この毎日が、ぐらぐらした奇跡だっていうのは、分かってる。
だからオレは、あの日ついた嘘にほころびが出ないように尽力する。
辛い。だってあんなにやさしい海を騙してるんだから。だけど幸せの代償だっていうなら。海を騙して、嘘で幸せを手に入れた罰だっていうなら、甘んじて受け入れたい。
「ん……、おはよ。海」
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