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嘘1

  深夜2時を過ぎた頃に、吾妻はようやく解放された。 思考がまともに働いてくれず、ぼんやりしたまま槇にタクシーで自宅まで送ってもらった。 「明日……もう今日か。休んでかまわない」 「………」 マンションの前に着いたので、吾妻がタクシーを下りようとしたとき、槇に頭を引き寄せられキスされた。 「………んんっ」 味合わうように舌を吸って、巻き唇が離れる。槇は「また連絡する」と告げて車を走らせた。 吾妻はしばらく立ち尽くしていたが、マンションの中に入っていった。 部屋に入った吾妻は電気も付けずにフラフラと壁伝いに歩いて、ベッドに倒れ込んだ。 あれでも槇は手加減して抱いたようで、歩けないほどではないが、酷く疲れていた。それに何もかんがえたくなかった。そのまま、吾妻は泥のような眠りに落ちていった。 翌朝、吾妻が目覚めた時にはもう昼過ぎだった。頭痛はするし、体はギシギシと軋んだ。気怠げに起き上がり、もそもそと服を脱いでバスルームに入りシャワーを浴びた。 ────夢じゃない。昨日、本当に槇社長とセックスしたんだ。 自分は女じゃないのだから、どうってことない。 そう思いたい。けれど、吾妻は昨日までの自分とは違う自分になってしまったように感じていた。 男が男に抱かれるなんて………そういう人達に差別的な意識は無いけれど、自分はそうじゃない。普通に女の子が好きだし、ゲイじゃない。 女の子が好き………? 吾妻は女の子と付き合った事も無ければ、セックスだってした事も無い。 まともな恋愛なんて一度も経験が無かった。 昨夜、全てをすっ飛ばして、槇に濃厚なセックスを叩きこまれたのだ。 槇は強引だったが、決して一方的ではなかった。 吾妻もしっかりと快楽を感じて、最後の方には槇に求められるままに淫らな言葉さえ言ってしまった。 『いやらしい子だ………ここが気持ちいいんだろう? 言ってみろ。吾妻………』 槇は低く男らしい声に甘さを含ませて、吾妻の耳元で囁いた。その声を思い出して、吾妻はゾクリとする。 慌ててシャワーの湯を水に切り替えて、頭を冷やした。 忘れなきゃ。明日からは今まで通りにしないと。 正志には絶対に知られたくない。 正志は勘の鋭いところがある。しばらくは会わないようにした方がいいかもしれない。槇の手伝いが忙しいとでもメールすればいいだろう。 吾妻の胸がチクリと痛んだ。 今まで正志に嘘を吐いたことなんて無かったのに。 でも、この嘘は吐き続けなくてはいけない。アクアリウムの展示を成功させる為に吾妻が槇とセックスしたなんて知ったら正志は傷付く。 それに吾妻を軽蔑するだろう。 それだけは嫌だった。

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