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笑顔の裏1

  「吾妻」 上原は少し困ったような笑顔で、吾妻に近付いてきた。 吾妻は槇とのキスを見られたかもしれないと思い、言葉もなくその場に突っ立ったままでいた。 ────ど、どうしよう!? よりによって、ずっと苦手に感じている上原に見られるなんて……… 「吾妻。今のは誰なんだ?」 「あ、あの………」 上原はにこっと笑って吾妻の肩に手を乗せた。吾妻はびくりと体を揺らしてしまう。 この笑顔が苦手だった。 爽やかな好青年そのものの笑顔だが、何故だか怖く感じてしまう。 「ここじゃ話しにくいだろ? 部屋にあげてくれ」 上原は吾妻の肩を抱きよせて小声で言った。その言葉に吾妻は顔色をなくして上原を見上げた。 上原を部屋にあげたくない。 上原は張り付けたような作り笑いで、断らせないように圧力をかけているようだ。その時……… 「こんばんは」 「!?」 正志が上原の肩を掴み、吾妻から離すように下がらせた。 吾妻はパニックに近い状態だったので、正志に気付いていなかった。 「お疲れ様、優雨ちゃん。えっと、上原さんでしたっけ?」 正志は吾妻を隠すように上原の前に立った。上原は一瞬、嫌悪を露わにした顔をしたが、すぐにいつもの笑みを浮かべた。 「ああ、俺も仕事帰りなんですよ。たまたま吾妻を見かけたものだから」 「そうなんだ。ちょっと優雨ちゃんと大事な仕事の話があるので、失礼しますね」 「あ、ま、正志さん!?」 人当たりのいい正志にしては珍しく感じの悪い対応で、吾妻の手を引いてマンションの中へ入っていった。 「吾妻!」 上原が吾妻の背中に向かって声をかけた。 「また連絡するよ」 ふり返った吾妻は上原の笑顔にぞくりとしたのだった。

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