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あの夏1
───幼い豪 の記憶に焼き付いた、もうずっと忘れることのできない夏のことだ。
子供の頃、夏休みには毎年、父方の田舎へ一週間ほど遊びに行っていた。
住んでいる側からすれば何もない田舎だが、小学四年生の原田豪 にとっては、川遊びも虫取りも刺激的な遊びだった。
あれは特に暑い夏だった。その年も豪は両親と一緒に田舎に泊まりに来ていた。
都会では容赦ない太陽の攻撃でアスファルトが熱を持ち、夜でも蒸し風呂のようだったが、山の夜は気持ちのいい風が吹き、ずっと過ごしやすかった。
とはいえ、昼間は都会と同じく灼熱の太陽が照りつけていたが。
そんな太陽に負けず、豪は畦道 を全力で走っていた。目当ての相手を見つけて大きく手を振って叫んだ。
「師匠ー!」
師匠と呼ばれた少年は両手を上げて、ぴょんぴょん跳ねた。
師匠は山岡葵 といい、豪よりひとつ年上だ。
小麦色に日焼けした健康的で元気いっぱいの少年で、虫取りやザリガニ釣りの名人で、豪の師匠なのだ。
「遅っせーぞ」
「昨日の夜についたんだよ。ねえ、今日はどこいくの?」
蛇を捕まえるのか、フナを釣るのか、豪はワクワクした眼差しで葵を見た。
葵はニカッと白い歯を見せて笑った。
「秘密基地に行くぞ」
秘密基地とは、山の中の大きな木の下に段ボール紙を敷いただけの場所のことだ。
とても基地とは呼べないが、二人だけの秘密の場所だった。
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