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ふたり2

レイプとは程遠く、豪は葵を大切に抱いた。葵は何度も絶頂に達し、最後には自失していた。 「……ごめん。俺、あいつと同じだ。でも……好きなんだ」 眠る葵の頬に手で触れた。まだ少し汗ばんでいて、葵が実物なのだと感じられて、豪の胸が苦しくなる。 葵を抱いた。腕の中で快楽に乱れる葵は綺麗だった。葵とのセックスは空虚だった豪の胸を満たしてくれた。 同時に……葵に酷い事をした罪悪感で胸が潰れそうになる。でも止められなかった。 豪は幼い子供みたいな声で囁いた。 「好きでごめん……さよなら、師匠」 立ち上がり、部屋を出て行こうとした豪の手を、眠っているはずの葵が掴んで引き止めた。 「……ヤリ逃げかよ」 「……ごめん」 俯いた豪に、葵は苛立ったように「タバコとって」と言った。 豪からタバコの箱を受け取り、一本咥える。だが葵は火は付けずにガジガジとタバコを噛んでいた。 「……俺もごめん」 「あ、葵が謝る事なんてない!」 「お前を、置いて逃げただろ」 「俺が逃げろって言った」 「俺のせいでケガしたのに……見舞いにも行かなかった」 「葵の方が大変だったんだ。なのに、俺……葵に許してほしいって……葵は俺の顔なんて見たくなかったんだろ? だから……ごめん」 豪は自虐的に笑う。ひどく寂しげな笑顔に葵も苦しくなる。 「……会いたかったよ」 「え……」 「俺も会いたかった」 葵は真正面から豪の顔を見て、ゆっくりと確実に言葉にした。 嘘も偽りもなく裸で抱き合った後、葵はもう逃げるのはやめようと思った。 「売りなんてしてないよ。男とヤッてんのはホントだけど」 その言葉に豪はホッとして、すぐに複雑な表情になった。その顔が子供の頃、山で捕まえた蛇を見せたときの顔に似ていて、葵はクスリと笑った。 その笑顔が子供の頃のままで、豪はまた泣きたい気持ちになる。 「俺、男とする方が安心するんだ。女の子とエッチすると……どうしても、酷い事してるみたいに思えて。歪んでるんだ、俺。でも、お前はまっすぐのままで、怖かった。俺は異常だから」 「葵は異常じゃない! 俺の方がおかしいんだ。葵に無理矢理こんなこと……」 泣きそうな顔の豪の髪をくしゃりと撫でて、 「二人とも異常だからいいのかな」 葵がぽつりと呟く。 二人は同じだと言われて、豪の瞳から涙が零れた。 「来い、泣き虫」 葵は豪を抱き寄せて、その頭を胸の上に乗せた。 「……豪に会えて嬉しいよ」 「葵……好きだ」 「うん」 「好きでごめん」 葵は「いいよ」とだけ答えて、静かに豪の髪を梳き続けた。それだけで豪は幸せな気持ちになった。 話したいことがたくさんある。聞きたいことも山ほどある。でも穏やかな空気を壊したくなくて…… 心地よさに豪は目を閉じて、そのまま二人一緒に眠りに落ちていった。 end.

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